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科学者が語る科学の楽しみ

能勢 修一氏

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プロフィール

科学のおもしろさについて

一見、不思議と思われる現象でも、自然界の基本の法則にたち返って調べて行くと、なぜそうなっているのか、その理由がわかる時、やっぱり自然はうまくできていると思います。基本となる情報を組み合せて、答えを求めて行くところはパズルの面白さに通じると思いますが、自然現象では、答えがわからないことが多いので、いつでもスッキリとは行きませんが、その半面、何か新しいことがわかった時の喜びは大きくなります。
結果が出てくる過程もいろいろあって、私のIBM賞の対象となった温度一定のシミュレーション法は、思いつきの部類に入り、数日考えただけで結論が出てきたので、どのような経過で、結論に導かれたのか、自分でもあまりうまく説明できません。もう少し、順序だってわかっていったものとしては、温度一定の方法を独立な振動子(バネ)の集まりに適用し、本当に温度一定の状態のエネルギー分布が実現しているか調べた例をあげることができます。方法は、粒子数が多く、ある程度複雑な場合に成り立つことを見込んで定式化してあります。これが、粒子の数が少なく、また、対象が振動子のような単純な場合でもよいかが問われていました。一つの振動子の場合、ほとんどの場合規則的な振舞いを示し、乱れた振舞いは、あまり見られません。それに対し、振動数の異なる2つ以上の振動子を考えると、乱れた振舞いがよく見られることが知られていました。2つの振動子の振動数を同じにして計算機で結果を求めてみたら、非常に規則性の強いうなりのような現象が現れました。振動数が同じであると、振動子数を増やしてもほとんど同じ結果となることもわかりました。そして、計算の初期条件やパラメターを変えると、うなりの周期が規則的に大幅に変化しました。これは面白いと思い、なぜこんな現象が現れるのか調べてみることにしました。
いろいろと条件を変え、結果をグラフに書くなどして解析して行くと、振動子が2つの場合には、いくつかの結果は三角関数を用いて簡単な形に表せることを見つけました。(このように結果から推測して得たものを実験式といいます)。この関係は、非常によく成り立っていたのですが、もちろんこの時点では、その理由は、わかりませんでした。しばらくすると、実験式の形を仮定すると、もう少し複雑な他の量の振舞いも説明できることがわかりました。
このように、数値計算をしたり、理論的に解析をしたり、試行錯誤を繰り返して調べて行ったわけですが、最終的には、特異摂動法という近似法を用い、振動子全体の平均的な動きの中で一つの振動子がどのように動くかを決める方程式を導くことができました。その方程式は、三角関数および逆三角関数を用い数学的に完全に解くことができました。これにより、うなりの現象が現れる理由が理解できるようになりました。最終的な解は、振動子の数がいくつの場合にでも求められたのですが、特に、2個の場合の結果を出してみると、計算結果から推測した実験式とほとんど同じで、初めの推測が、よいものであったことが確認できました。
この場合は、計算を始めてから、理論的な解が求まるまで、9ヶ月程かかったのですが、奇妙な現象を見つけてから、その機構が段々はっきりしてくる経過は、楽しいものでした。

研究テーマ

日常我々が接している物質は、非常に多くの分子が集まってできている。その中の1つの粒子がどのように動くかは、力学の法則により知ることができる。
私が主な研究手段としている分子動力学シミュレーションは、コンピューターを用いてこの微小な粒子の運動を調べることにより粒子が集まってできた物質がどのような性質を示すのかを知ろうとするものである。1950年代にこの手法が始められたときには、数百個の単純な原子の集まりを調べるので精一杯だったものが、コンピューターの計算能力の増大に伴い、現在では、蛋白質やDNA等の複雑な生体物質の性質を調べることや、障害物の周りにどのような流れができるかを数百万個の粒子を用いて調べることもできるようになってきている。
シミュレーションを行なっても、個々の粒子の動きは一見したところ出たら目で何か意味のある動きをしているようには見えない。ここから有用な情報を引き出すためには、統計力学を用いる必要がある。例えば、温度がいくらかを知るためには、粒子の持つ運動エネルギーを平均すればよい。この意味で、分子動力学法は統計力学的なシミュレーション法の一つである。分子動力学法は力学法則を基礎としているため、元々の形では力学的エネルギーが一定の状態での物質の性質を調べている。これは、通常実験室で用いられる温度・圧力一定の条件と異なるため実験との直接的な比較が難しかった。私は、それ以前に開発されていた圧力一定の方法からヒントを得て、温度一定の状態を実現できる方法を見つけた。これが、日本IBM科学賞の対象となった研究である。この方法は、今では能勢フーバーの熱浴法と呼ばれることが多い。
原子が共有結合で結び付いている場合(電子部品の材料であるシリコンはその代表)や金属では、原子を1つの粒子とみなす考え方は充分ではなく、原子を原子核とそれを取り巻く電子に分け、電子については量子力学的に取り扱わなければならない。カーとパリネロは、分子動力学法の手法を応用して、電子を含む場合の計算を、それまでの数十ないし数百分の一の時間に大幅に短縮する計算手法を見つけている。 これにより、多くの物質について実験値に頼らずに、物質を構成する原子の性質のみから、その性質を知ることが可能になってきている。この意味でカー・パリネロ法は、第一原理的分子動力学法と呼ばれることもある。
コンピューターの能力が増すと、それほど困難なしに物質の示す性質を計算で予測できるようになり、種々の分野で必要とされるいろいろの特性を持つ物質を見つける場合、まず計算で性質を調べた後、有用な性質を持つと予測されたもののみを実際に合成して利用するようになるであろう。
カー・パリネロ法で計算をうまく行なうためには温度を制御することが必要である。私の見つけた温度一定の方法はカー・パリネロ法と組み合わされて、物質の性質を調べる際標準的に用いられるようになってきている。
私は現在、カー・パリネロ法を温度・圧力を制御するシミュレーション法と組み合せて温度、圧力を境に物質の構造が急激に変る相変化の現象を調べている。

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