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日本IBM科学賞

第25回 日本IBM科学賞 審査の結果、4分野5名の受賞者が決定しました。

「日本IBM科学賞」の審査委員会を代表いたしまして一言ご挨拶申しあげます。

江崎玲於奈の写真
日本IBM科学賞第1回授賞式は、1987年12月18日、帝国ホテル 富士の間で盛大に挙行された。8人の受賞者は、物理、化学、コンピュータ・サイエンス、エレクトロニクスの四分野にわたり、日本のアカデミアで活躍する選り抜きの研究者であった。この賞の画期的な性格は若者の創造力と想像性を喚起することを目指し、年齢制限を加えたことである。受賞者8人のうち、40歳代が3人、30歳代が5人であった。たぶん、このように賞に年齢制限を加えるという前例はなく、このアイディアは賞設立に関係した我々が考案したのだと言えるのではないであろうか。ともかく、この授賞式の記念講演者は、その前年の1986年、走査型トンネル電子顕微鏡の開発でノーベル物理学賞を受賞した、時の人、IBMチューリッヒ研究所のハイニ・ローラー博士という豪華版であった。

開会の挨拶に当って、当時の社長であり、賞の創設者でもあった椎名武雄氏は、日本IBM創立50周年を記念し、社会貢献活動の一環として、日本のサイエンスに新たな刺激を与えて、その活力を高めようという賞の意義を強調した。

ところで、私は、1960年から1992年までの32年間、ニューヨーク市近郊のヨークタウンハイツにあるIBMワトソン研究所で十数人の若手を集めて研究活動を行ってきた。IBM研究所はヨークタウンの他に、西海岸のアルマディン(現在はサンホセ)とスイスのチューリッヒにあったが、1970年から客員研究員を世界各国のアカデミアから受け入れるようになった。客員の任期は1~2年であったが、私の研究室には常に諸外国から2~3人の客員研究員が活躍していた。1987年には、日本人の客員研究者の経歴者だけでも86人に達し、毎年一度、親睦会を開いて集まっていた。1987年、この親睦会に日本IBM創立50周年の記念事業に何かよいものはないだろうか、という相談があった。我々の返答がこの日本IBM科学賞設立であり、賞の研究4分野は、実は、客員研究者の研究分野であり、当然、IBM研究所における研究分野でもあった。このことにも関係し、初期には客員研究者が審査に協力し、またその中から受賞者も出ることにもなった。

ところで、IBMがコンピューティング・タビュレーティング・レコーディングという名の会社で設立されたのが1911年(明治44年)であるから、今年でちょうど100周年になる。1911年と言えば、ヨーロッパにおいては、超豪華客船タイタニック号が北アイルランドのベルファーストで進水しているし、マリー・スクロドスカ・キュリーがストックホルムで2回目のノーベル賞を受賞している。日本においては聡明な夏目漱石が盛んに文明批評の講演会を行っている。和歌山市で「現代日本の開化」と題した講演会では次のように見解を表明している。西洋の開化は内から自然に発展する「内発的」であるが、日本の現在の開化は外から押し付けられてするという「外発的」である。開化とは人間活力の発現の経路であると漱石は定義しているので、サイエンスの研究課程も当然、開化に該当し、彼に従えば、西洋の研究は「内発的」であるが、日本の研究は「外発的」という違いがあることになる。

研究者が研究成果を的確な英文で報告することは極めて重要である。サイエンスは欧米の風土で内発的に発展してきており、欧米語がそれに適していることは言うまでもない。欧米語と日本語の大きな違いは冠詞の有無であろう。英語においては、すでに話題に上がっているものには定冠詞、the、初めて話題に上がる新しいものには不定冠詞、a、をつけることは周知のとおりである。

ところで、今まであまり論議されなかったが、考えてみると、欧米語では冠詞によって何が古いか、何が新しいか、を常に注意を喚起してくれている。これはサイエンスの進歩、そして社会の前進に何か役に立っているのではないだろうか。

私は1969年、IBM研究所で半導体超格子を発案し、先駆的な研究を行ってきたが、初めて国際会議で発表する時、“I would like to propose a semiconductor superlattice”と切り出した。“the superlattice”ではなく、”a superlattice”である。これはかなりの反響を呼んだと思われる。

ところで、夏目漱石が100年前、日本の開化は「外発的」と言ったその名残りが、今なお、日本のサイエンスの研究にもあるように思われる。トムソン・ロイター社による学術論文の被引用回数を見ても、日本の研究論文は欧米人のそれに比べると、残念ながら平均値において下回っている。つまり日本の研究は、“the” にまつわるものが多く、“a”の研究が今でも欧米比べ、乏しいのである。日本で“a”の研究を高めることが、日本IBM科学賞設立の真の目的あることをその創設に関わった一人として、ここに明言させていただきたい。

そして、近年、日本においても、“a”の研究がやや増加の傾向にあると思われるが、それには本賞もいささか貢献していると信じたいところである。

日本IBM科学賞 審査委員長 江崎 玲於奈

ニュース

第25回「日本IBM科学賞」は4分野5名の受賞者が決定しました。
本年度の日本IBM科学賞の受賞者が決定しました。受賞者については、受賞者一覧をご覧ください。
なお、記念授賞式は12月1日(木曜日)に学士会館(東京都千代田区神田錦町3-28)で開催いたします。


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