日本IBM科学賞第2回(1988年)受賞者
受賞者紹介
土井 正男(どい・まさお)
昭和23年 3月28日生まれ
東京都立大学理学部物理学科 助教授

昭和 45年
東京大学工学部物理工学科卒業
昭和 48年
東京大学工学系研究科修士課程修了
昭和 49年
東京都立大学理学部物理学科・助手
昭和 51年
博士号取得(東京大学)
昭和 51年
英国留学(ケンブリッジ大学など)
昭和 53年
東京都立大学理学部物理学科・助教授
昭和 59年
~60年ケンブリッジ大学でS.F.エドワーズ教授と共同研究
専門:
高分子物性論、レオロジー
著書:
『The Theory of Polymer Dynamics』
(Oxford University Press)
贈賞の理由
高分子液体の粘弾性のレプテーション理論
ゴムやプラスチックといった高分子は、長いひものような分子です。この高分子を含んだ液体は、分子が互いに複雑にからみあい、液体の性質である粘性と、固体の性質である弾性の両方を現わします。この「粘土のような物質なのに、はずむ物質」が粘弾性体です。
粘弾性体は、化学工業の分野ではきわめて重要な材料であり、これまで、そのさまざまな性質について詳しく研究されてきました。ところが、そうした膨大なデータを統一的に説明する理論がなく、経験科学の領域にとどまっていたのです。この問題に、きちんとした物理的説明を与え、新しい研究の流れを作ったのが「土井・エドワーズ理論」です。
高分子粘弾性体を分子レベルから説明しようとするとき、一番むずかしいのは、からみ合った分子の運動をどう記述するか、ということです。個々の分子はかなり自由に動けるのですが、互いに横切っては動けません。
土井助教授は、ドゥ・ジャン博士が1971年に発表した「レプテーション運動」に注目しました。これは、パチンコ台のように、釘をたくさん打った板の上をヘビが動いていくというものです。ヘビは釘のところを越えられないので、運動の自由度が一番大きいのは、自分の体にそった方向です。
このアイデアをもとに、土井助教授は独自に理論を組み立て、粘度の分子量・濃度依存性などを予言しました。さらに、1978年には、留学先であるケンブリッジ大学のエドワーズ博士と6編の論文を発表し、その理論のすばらしさが世界に認められるようになりました。長いあいだ蓄積されてきたデータを、ほとんどあますところなく説明できたのです。
高分子やコロイドといった問題は、これまで主として化学の領域と考えられてきましたが、土井助教授は、これを物理学の問題としてとらえ直
し、分子レベルから解答を与えたのです。この成果は、いかに複雑な問題でも、優れたアイデアがあれば大きな成功を収めることを示しています。
※所属名および役職は、受賞時のものです。
