日本IBM科学賞第3回(1989年)受賞者
受賞者紹介
能勢 修一(のせ・しゅういち)
昭和26年6月17日生まれ
慶応義塾大学理工学部 助教授

昭和 49年
京都大学理学部化学科卒業
昭和 54年
京都大学大学院理学研究科
博士課程修了昭和 54年
京都大学研修員
昭和 56年
カナダ国立研究所リサーチ・アソシエイト
昭和 59年
慶応義塾大学理工学部・助手
昭和 63年
慶応義塾大学理工学部・専任講師
昭和 元年
慶応義塾大学理工学部・助教授
専門:
コンピューターシミュレーションによる凝縮系の物性
贈賞の理由
温度制御可能な分子動力学法の開発
物理学はこれまで、理論物理と実験物理に大別できました。しかし最近、計算物理という新しい分野が発展しています。能勢助教授はこの計算物理の分野で、古典的な分子動力学(MD)によるシュミレーションで温度を適確にコントロールする方法(能勢の方法)を提案、MDシミュレーション法の発展に貢献しました。
MD法とは、液相や凝縮系の統計力学的な物理量を構成する多数の原子や分子の運動を、コンピューターのシミュレーションで計算するものです。従来の計算は古典力学に基づいているため、「エネルギーと体積が一定」が前提でした。このため理論計算には適していても、現実の実験条件と同じ条件下でシミュレーションするには、都合が悪かったのです。そこで能勢助教授は、「エネルギー一定」という条件を「温度一定」と置き換えました。
具体的には、MDシミュレーションで狙った温度を実現するため、系の各粒子の速度を系統的に制御します。温度は「物質の中で粒子がどれだけ激しく動いているか」ですから、粒子の速度を制御すれば系の温度を制御できるわけです。しかし温度を一定に保った時には、系の全エネルギーが変化するので、エネルギーをやり取りする熱浴が必要になります。熱浴は通常、非常に多くの粒子があると考えますが、能勢助教授は「熱浴には粒子がたった1個しかない」と仮定、計算を簡略化しました。そして、粒子を1個と考えても、満足できる結果が得られることを証明したのです。
「能勢の方法」を使うと、系の中にある粒子数から運動エネルギーの平均値が、そして、運動エネルギーから温
度がわかります。こうして求めた温度が、狙った温度と違っていれば、一種のフィードバックが働いて粒子の速度を調節
、希望の温度に収束させようとするわけです。この研究成果は、ガラス転移をはじめ、構造相転移を解明する際に役立つものと考えられています。
※所属名および役職は、受賞時のものです。
