日本IBM科学賞第5回(1991年)受賞者
受賞者紹介
林 民生(はやし・たみお)
昭和23年2月16日生まれ
北海道大学触媒化学研究センター 教授

昭和 45年
京都大学工学部合成化学科卒業
昭和 50年
京都大学大学院工学研究科
博士課程修了昭和 50年
京都大学工学部合成化学科・助手
平成 元年
北海道大学触媒研究所・教授
平成 元年
北海道大学触媒化学研究センター
教授専門:
有機化学合成
贈賞の理由
高立体選択性不斉触媒のデザイン
化学調味科のグルタミン酸には、同じ分子式でありながら、うまみがあるものとないものがあります。うまみがあるのがL-グルタミン酸、ないのがD-グルタミン酸です。この2つは、互いに鏡に映した形をしていますが、両方を重ね合わせることはできません。これらが「対掌体」です。
私たち人間を含め、生物の体は大半がこの対掌体の片方だけでできています。これを不斉といいます。そして、生体は対掌体の片方だけしか有効に利用できません。なかにはサリドマイドのように、対掌体の一方に薬理効果がある半面、もう一方が毒性を持つ場合もあります。そのため、医薬品や農薬を作るには対掌体の片方だけを作り出すことが重要になります。
しかし、対掌体の片方だけを作るのは、なかなかの難問です。通常の反応では、対掌体が半分ずつできるので、そこから一方だけを選ぷこともできますが、融点や沸点などの物理化学定数がまったく同じ2つの物質を分けるのですから、容易ではありません。
林教授は、そこで、一方の対掌体を優先的に作り出すユニークな不斉合成触媒を開発しました。不斉触媒の開発自体は、いくつかのグループによって1960年代後半に着手されましたが、林教授は既存の不斉触媒では満足せず、目指す反応に合わせて設計できるような不斉触媒を求め、ついにそれを開発したのです。光学活性フェロセニルホスフィンがそれです。
この触媒は、チョウチンアンコウのように、大きな口とチョウチンを持っています。口の中には触媒活性部位である遷移金属が入り、チョウチン部分は目指す分子をおぴき寄せる働きをもっています。そして、目的の反応に合わせて、この金属とチョウチンを自由に変えることができるのです。この点が、他の不斉触媒と決定的に違う重要なポイントです。
林教授は、この触媒を駆使してアミノ酸合成など多くの不斉合成に成功しました。なかには、天然の酵素を上回る選択性を示すものも得られています。
※所属名および役職は、受賞時のものです。
