日本IBM科学賞第5回(1991年)受賞者
受賞者紹介
吉川 研一(よしかわ・けんいち)
昭和23年7月25日生まれ
名古屋大学教養部化学教室 教授

昭和 46年
京都大学工学部石油化学科卒業
昭和 51年
京都大学大学院工学研究科
博士課程修了昭和 51年
徳島大学教養部・講師
昭和 54年
徳島大学教養部・助教授
昭和 63年
名古屋大学教養部・助教授
平成 2年
名古屋大学教養部・教授
専門:
生命現象の物理化学
著書:
『味覚センサー』
(冬樹社)
『リズムと形を作り出す化学-一自己組織化のダイナミックス』
(学会出版センター)
贈賞の理由
化学領域における非線形発振現象の研究
心臓の鼓動・脳波・日周期など、生きている証しであるリズムはどうして生まれるのでしょうか。吉川教授は、生体膜が自発的に発振することを、理論と実験による再現の両面で、世界に先駆けて開拓し、この謎を解く貴重な手がかりを提供しました。
物理化学的な作用で振動する現象については1970年頃に、塩水入りのコップの底に穴をあけて真水につけると、穴を通して塩水の吹き出しと真水の流入が交互に起きることが発見されました。しかし、これまでその理論的な根拠がありませんでした。吉川教授は、非線形微分方程式を用いてこれを初めて定式化するとともに、油水界面に界面活性剤の膜を作ると、同様の現象として膜の電位が周期発振することを見いだしました。
さらに、穴のあけたコップ2個、3個をどんな時間間隔で真水につけても、溶液濃度などのパラメーターを調節すれば、位相がそれぞれ180度、120度ずれて周期発振することを理論・実験で示しました。また、酸化・還元を繰り返す化学反応系などでも同様の現象を確かめており、これらの現象は「非線形非平衡」な系で普遍的な現象と見られます。この非線形非平衡な系とは、何らかの外力に対してエネルギーの流れが生ずるが、その大きさは外力に対して比例応答しないような系のことで、自然界にはいろいろな例が見られます。
吉川教授は、化学ポテンシャルに差がある2種類の溶液の界面に膜を作ると膜が自励発振すること、また複数の、“振動子”がぱらばらに振動していても、最終的にはリズム状態に安定することも理論的に示しました。つまり、生物が営む自発的なリズム形成が人工的に初めて再現されたわけです。
各学問分野への波及効果も大きいとみられ、吉川教授自身、膜電位の周期波形が水溶液中の化学物質によって変わる性質から、1種類の膜だけで多数の化学物
質を見分けることができる味覚、嗅覚センサー方式を提案しています。また、同様の膜を用いて神経インパルスや3相交流電圧の発生にも成功しており、
生物学や情報処理(ニューラルネット)の分野にも多大な影響を与える可能性を秘めています。
※所属名および役職は、受賞時のものです。
