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日本IBM科学賞第6回(1992年)受賞者

受賞者紹介


加藤 重樹(かとう・しげき)
昭和24年3月22日生まれ
京都大学理学部化学科 教授


加藤重樹氏の顔写真

  1. 昭和 46年

    京都大学工学部石油化学科卒業

  2. 昭和 51年

    京都大学大学院工学研究科
    博士課程修了(工学博士)

  3. 昭和 51年

    日本学術振興会奨励研究員

  4. 昭和 52年

    岡崎国立共同研究機構分子科学研究所
    理論研究系助手

  5. 昭和 59年

    名古屋大学教養部・助手

  6. 昭和 60年

    名古屋大学教養部・講師

  7. 昭和 61年

    名古屋大学教養部・助教授

  8. 平成 2年

    京都大学理学部・教授

  9. 専門:

    理論化学(化学反応論)

  10. 著書:

    『化学の基礎一一分子論的アプローチ』
    (共著:講談社サイエンティフイック)

贈賞の理由


溶液内光化学過程の分子理論

化学反応の多くは溶液の中で起こるため、反応を正確に理解するには、溶質分子と溶媒分子が反応の過程でどう振る舞うかを電子の状態をふまえて解明することが重要です。こうした化学反応の理論的研究では、これまでにもさまざまななモデルが試みられてきましたが、その多くが反応を静的なマクロなレベルで論じたものであったため、分子のダイナミックスを微細に解明しようというアプローチには多くの期待が寄せられていました。

加藤教授が着目したN、N-ジメチルアミノベンゾニトリル(DMABN)は、極性溶媒(水やアルコールなど)の中で光吸収により化学反応が起こることが知られている物質です。具体的には、長波長の光が当たると溶媒の影響によって溶質分子の内部で電子の受け渡しが行われ、分子内イオン対状態が生成され、この状態からの発光現象が見られるもので、これを「光誘起電子移動反応」と呼びます。このような電子の移動は、数々の実験結果から予測されていましたが、その機構の微視的なレベルからの理論的解明はまったくされていませんでした。

この反応を理解するために、加藤教授はまず、溶質分子を溶媒のない状態での孤立分子と考え、分子軌道法を使って溶質の基底状態と励起状態を表す波動関数を求めました。光の吸収によって溶質の電子構造がどう変わるかを計算から導き出したわけです。次に、これをもとにして水中での溶質・溶媒分子の相互作用モデルをつくる方法を開発し、電子移動過程の自由エネルギー面を、膨大な計算量によって求めることに成功しました。

この結果は、見事に1枚の2次元のグラフとして見ることができます。具体的には第一励起状態と第二励起状態の2つの電子状態のポテンシャルエネルギーの差を溶媒和座標として一方の軸にとり、溶質分子の構造の変化を表すジメチルアミノ基の回転角の変化によって、2次元の自由エネルギー面を表現する方法です。その形状から、溶質分子が構造の変化に伴って次々と電子状態を変化させ、反応が進行していく様子がわかります。

理論計算を駆使したこの独創的な研究は世界でも例のないものであり、他の化学反応を理解するためにも広く応用できるため、きわめて貴重な成果です。

※所属名および役職は、受賞時のものです。