日本IBM科学賞第7回(1993年)受賞者
受賞者紹介
山本 智(やまもと・さとし)
昭和32年12月23日生まれ
東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 助教授

昭和 55年
東京大学理学部化学科卒業
昭和 60年
東京大学大学院理学系研究科
化学専門課程修了(理学博士)昭和 60年
名古屋大学理学部宇宙理学専攻・助手
平成 5年
東京大学大学院理学系研究科
物理学専攻・助教授専門:
分子分光学、星間化学
電波天文学
贈賞の理由
星間空間における新分子種の発見と分子雲の化学進化の解明
星間空間には、分子雲と呼ばれる大陽質量の数倍から数千倍程度の希薄な分子ガスの塊がいくつも存在しています。近年の電波天文学と赤外線天文学の発展によって、分子雲の中での恒星と惑星系の形成過程が直接調べられるようになり、世界的に活発な研究が行なわれています。なかでも、分子や塵といった星間物質が分子雲でどのような進化をたどり、惑星系に受け継がれていくかについて、太陽系の起源との関連で強い関心がもたれています。
分子雲にどのような分子が存在するかを知ることは、そのような物質進化を理解する第一歩です。山本助教授は、実験室で高感度のミリ波・サブミリ波分光器を開発し、CCS,C3S,環状C3H,C4H(v7=1,2)、CH2Nなどのこれまで未知であった分子の回転スペクトルを明らかにするとともに、電波望遠鏡による観測でこれらを星間分子として検出しました。特に、環状C3Hラジカルは直線C3Hラジカルの構造異性体で、有機化学の上でもまったく知られていなかったものです。分子雲における環状C3Hラジカルの発見は、炭素鎖分子の生成にイオン分子反応が重要な役割を果たしていることを支持するとともに、他の炭素鎖分子の構造異性体の存在の可能性を指摘した重要な結果です。
次に、分子雲の化学組成と物理進化の関連を観測的にとらえるために、CCS、NH3をはじめとするさまざまな分子のスペクトル線を用いて、多くの分子雲の化学組成を徹底的に調べる研究に取り組みました。国立天文台の45m電波望遠鏡などを用いた観測の結果、分子の化学組成は分子雲ごとに系統的に異なっていることを見いだしました。CCSなどの炭素鎖分子は、星形成がまだ起こっていない若い分子雲で多いのに対して、NH3やSOなどは星形成領域で豊富に見られます。
化学モデル計算をもとに、このような化学組成の違いが、おもに分子雲の進化段階による炭素の存在形態の違いに由未していることを示しました。
この結果は、分子雲の物理進化と化学進化を結ぴつけることができること、すなわち、化学組成をもとに物理的進化段階を調べることができることを
意味し、分子雲から恒星の誕生に至るプロセスを理解する上で、新たな方法論を提起しました。
※所属名および役職は、受賞時のものです。
