日本IBM科学賞第8回(1994年)受賞者
蔡 安邦(さい・あんぽう)
昭和33年12月26日生まれ
東北大学金属材料研究所 助教授

昭和 60年
秋田大学鉱山学部冶金学科卒業
平成 2年
東北大学大学院工学研究科
材料物性専攻博士課程修了(工学博士)平成 2年
東北大学金属材料研究所・助手
平成 5年
東北大学金属材料研究所・助教授
平成 4年
科学技術庁無機材質研究所
客員研究官併任 現在に至る専門:
材料物性
著書:
『物理学論文選集II・準結晶』
(共著:社団法人 日本物理学会)
贈賞の理由
準結晶に関する研究
1984年の、規則性はあるが周期性のない新しい構造を持つ準結晶の発見は、固体物理に大きな新しい分野をもたらしました。発見当初の準結晶は、急冷によって得られる熱力学的に不安定な試料でした。したがって、測定される物理量も試料ごとに異なるという困難がありました。それでも、この新しい物質が、これまでに知られている構造、すなわち周期的結晶とアモルファスとはかなり変わった性質を持っていることは認識され始めていました。
蔡助教授は、これらの不安定な物質ではなく、融点近くまで焼鈍しても安定な組み合わせを系統的に多数発見するという点において高く評価されるものであります。蔡助教授の発見以前には、Al-Li-Cu(木村助教授の研究はこの試料を使ったものです)が唯一知られていました。蔡助教授はまずAl-Cu‐Feの組み合わせで安定相を見つけ、それをふまえて、安定性を得るためには価電子濃度比が重要なパラメタであると推論し、その方針に従って次々と新しい安定な準結晶を見つけていきました。蔡助教授の発見は正20面体相を単位とする一群に止まらず、正10角形相にまで及び、現在までに知られている10数種類の安定相準結晶のほとんどが蔡助教授の発見にかかるものです。
一方、木村助教授は、すでに指摘されていた、準結晶の電気抵抗が高いという性質に注目しました。それまでの実験データのばらつきは、安定とはいうもののAl-Li-Cu中に不必要な別の相が存在するためであると看破し、準結晶相のみを取り出す工夫をこらして測定を行ったところ、1mΩcmという高い値を再現性よく得ることができました。電気抵抗の温度依存性や磁場依存性や電子比熱の詳細な測定から、準結晶では電子のフェルミ準位での状態密度がきわめて低いことと、結晶周期性の欠落から生じるアンダーソン局在が、高い電気抵抗の原因であると結論しました。状態密度が低いことによって、準結晶の構造がエネルギー的に安定化されるのであるとの推論も行っています。最近では10Ωcmという極めて高い値が報告され、木村助教授も半導体準結晶の実現に向けて研究をすすめています。
このように、蔡助教授は試料作成、木村助教授は物牲という相補的な研究成果をあげ、ともにこの分野で世界的に高い評価を受けています。
※所属名および役職は、受賞時のものです。

