日本IBM科学賞第9回(1995年)受賞者
受賞者紹介
加藤 礼三(かとう・れいぞう)
昭和30年11月23日生まれ
東京大学物性研究所 助教授

昭和 54年
東京大学理学部化学科卒業
昭和 56年
東京大学大学院理学系研究科
化学専攻修士課程修了(理学修士)昭和 59年
東京大学大学院理学系研究科
化学専攻博士課程修了(理学博士)昭和 59年
東邦大学理学部・助手
昭和 63年
東邦大学理学部・講師
平成 2年
東京大学物性研究所・助教授
専門:
物性化学
贈賞の理由
有機パイ電子と金属d電子とが共存する分子性導体における金属
-絶縁体転移の研究
電子が動きやすい分子構造、パイ電子の共役構造をもつ有機化合物は導体となる可能性があり、実際、電子供与性の共役系化合物と電子吸引性の共役系化合物からなる有機分子錯体は導電性を示し、この分野は日本が世界に先行してきた領域の1つです。
加藤助教授の研究は、このような有機パイ電子系分子だけでなく、d電子をもつ金属イオンが共存する系を対象とするもので、この系についてごくわずかな分子構造の変化が導電性に非常に大きい効果をもたらすことを見い出したもので、極めて興味深い知見を得たものといえます。
加藤助教授が研究の対象とする有機パイ電子系化合物は炭素6員環を骨格とし、その両端に二重結合を介して窒素原子が結合し、その窒素原子にそれぞれシアノ基が結合し、6員環内にあい対して存在する炭素–炭素二重結合を含んだ全体がパイ電子共役系となり、6員環の残りの2か所にはメチル基(CH3)が、他の2か所には水素原子がついています。
この分子は、全体として平面構造で、銅イオンと錯体をつくると分子が重なり合い、その間に銅イオンが入って柱状の集合体になります。
興味深いのは、一般の有機導電体と違って、ある圧力以上で急に金属状態から絶縁体への転移が起こることです。一方、ある圧力で温度を変化させると、高温では抵抗が高く、低温では低くなります。さらに興味深いのは、この有機分子の6員環についているメチル基(CH3)と水素原子のHをすべて重水素Dに変えると、ある温度以下で急激に抵抗が増大し、絶縁体となるということです。
そこで加藤助教授は、これらの水素原子を部分的に重水素に変えた物–全部で35種類ある–を、有機合成の技術を駆使してすべて合成し、導電性測定に適した結晶の調整法を確立し、そ
れぞれの部分重水化錯体の導電性を詳しく調べました。その結果、驚くべきことに、例えぱメチル基のHを1
個だけDに変えるだけで(CH3→CH2D)、温度を下げて行くと一且急激に絶縁体となり、さらに温度を下げると急
に金属に復するという奇妙な現象を見い出しました。その理由はまだ必ずしも明確でないとしていますが、これら
の発見の導電性-構造相関研究への波及効果は大きく、高く評価されます。
※所属名および役職は、受賞時のものです。
