日本IBM科学賞第9回(1995年)受賞者
受賞者紹介
永長 直人(ながおさ・なおと)
昭和33年2月21日生まれ
東京大学大学院工学系研究科超伝導工学専攻 助教授

昭和 55年
東京大学工学部物理工学科卒業
昭和 57年
工学修士(東京大学)
昭和 58年
東京大学大学院工学系研究科
博士課程中退昭和 58年
東京大学物性研究所理論部門・助手
昭和 61年
理学博士(東京大学)
昭和 61年
東京大学工学部物理工学科・助手
昭和 63年
~平成 2年マサチューセッツ工科大学物理学科
博士研究員平成 3年
東京大学工学部物理工学科・助教授
専門:
物性理論(特に低次元強相関電子系)
贈賞の理由
ゲージ場を用いた高温超伝導体の理論的研究
強く相互作用をしながら運動する固体内の電子系-強相関電子系-の問題は現代物性物理における中心的な課題で、高温超伝導体はその代表的な問題となっている。より具体的には、モット絶縁体にドープされた少量の正孔が電流担体となり、系の電気的性質を支配し、ついには超伝導を引き起こすのであるが、これは通常の半導体の正孔とは異なる本質的に多体論的な自由度であり、一体近似のバンド理論を越えた新しい記述を必要とする。
永長助教授は、この問題に対して共鳴原子価結合(RVB)理論の立場から、当時得られていた実験データを矛盾なく説明できるシナリオとして、スピンと電荷をそれぞれ担う二種の粒子がゲージ場を介して相互作用するというモデルを提唱し、その物理的な性質を詳細に検討した。
このモデルは、観測する物理量によって、(1)金属的な振る舞いを示すもの、(2)ドープされた半導体的な振る舞いを示すもの、(3)両者を組み合わせた性質を示すもの、の三者が在在することを明らかにし、その具体的計算を初めて可能にするものであった。この仕事は、スピン-電荷分離という魅力的ではあるがとらえどころのなかった概念が、どのような形で実際の現象に現れるかを初めて明らかにし、詳細な物性実験との比較検討を通じて理論を構築するという、高温超伝導体研究の新しいしかも健全な段階を切り開く先駆的な研究となった。
このモデルは、ちょうど素粒子を記述する量子色力学において、ハドロンをより基本的な粒子であるクォークの複合粒子として記述するのに似ており、スピン-電荷分離は非閉じこめ相に対応するが、物性物理の扱う低いエネルギー領域でそのような顕著な現象が起こっているかが大きな問題であった。
永長助教授は、格子ゲージ理論の手法を駆使して、大きなフェルミ面の存在からくる散逸(摩擦)の効果が閉じこめ効果を抑え、スピン-電荷分離が可能なことを示した。
このように、永長助教授は、物性論と素粒子論の境界領域を開拓し、両者 の交流にも寄与した。さらに永長助教授の仕事は量子ホール系、特に偶数分母のフェルミ流体的量子ホール系の理論、ランダムなゲージ場中の電子の運動など、多くの問題に波及効果を及ぼした。
※所属名および役職は、受賞時のものです。
