日本IBM科学賞第12回(1998年)受賞者
受賞者紹介
鹿野田 一司(かのだ・かずし)
昭和33年1月22日生まれ
東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻 助教授

昭和 56年
東北大学工学部卒業
昭和 61年
京都大学大学院工学研究科
博士後期課程修了昭和 61年
京都大学化学研究所・研修員
昭和 62年
学習院大学理学部・助手
平成 3年
岡崎国立共同研究機構分子科学研究所
助教授平成 9年
東京大学大学院工学系研究科・助教授
専門:
固体物理学
贈賞の理由
分子性固体の金属―絶縁体転移と超伝導の研究
分子が集合して固体を形成する分子性固体においては、構造からくる異方性のために電子状態が異方的になり、分子の凝集力がファンデアワールス機構によるため分子間の重なり積分が小さく電子のバンドが狭くなる。これに加えて、電子間のクーロン相互作用が適度に存在するため、これら三つの要素の駆け引きによって、絶縁相、金属相、超伝導相、反強磁性相など多彩な電子相が出現する。
鹿野田助教授は、2分子のBEDT-TTFとX分子(Xは種々の化合物)からなる分子性固体を対象として、核磁気共鳴、磁化率、電気伝導度などの測定により、Xの違いにより出現する様々な電子相における電荷とスピンの状態を解明した。その実験事実に基づいて、異なる物質に現れる電子相をバンド幅と電子間相互作用をパラメーターとして統一的に説明する相図(鹿野田ダイアグラム)を提案した。
具体的には、まず、Xを変えて超伝導体から絶縁体にいたる試料を準備し、炭素13の核磁気共鳴緩和率を測定し、これらすべての物質群において反強磁性スピン揺らぎが強いこと、すなわち電子相関の効果が大きく現れていることを明らかにした。絶縁体になる物質の核磁気共鳴スペクトルの解析と磁化率の測定より、低温で反強磁性相への転移が起こり、その磁気構造が格子周期と整合することを明らかにした。
鹿野田助教授は、これらの実験事実を統一的に説明するために、実験に用いた試料について分子軌道計算などの手法を用いて電子間の相互
作用の強さUとバンド幅Wを求め、温度と(U/W)の平面上に実験データーをプロットした。この結果、多彩な電子相の出現が統一的に説明
出来たのである。この鹿野田ダイアグラムから明らかにされたように、超伝導相と絶縁性の反強磁性相が隣接している。これは、高温超伝導体
の場合も同じであり、鹿野田助教授の今回の成果は、単に分子性固体の物性解明にとどまらず、高温超伝導発現機構の解明にも重要なヒントを
与えるものであり、本賞を贈るにふさわしいものである。
※所属名および役職は、受賞時のものです。
