日本IBM科学賞第13回(1999年)受賞者
受賞者紹介
相田 卓三 (あいだ・たくぞう)
昭和31年5月3日生まれ
東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻 教授

昭和 54年
横浜国立大学工学部応用化学科卒業
昭和 56年
東京大学大学院工学系研究科
合成化学専攻修士課程修了昭和 59年
東京大学大学院工学系研究科
合成化学専攻博士課程修了昭和 59年
東京大学工学部・助手
平成 元年
東京大学工学部・講師
平成 3年
東京大学工学部・助教授
平成 8年
東京大学大学院工学系研究科・教授
専門:
高分子化学
贈賞の理由
分子間相互作用の空間制御によるナノ領域の新反応
生体内では、酵素などナノメートルスケールの構造体が重要な役割を演じており、その構造中に適切な空間配置をもって組み込まれた複数の機能団が協同的にはたらき、生命現象の基本ともいえるプロセスを実現している。相田教授は、このような観点から、様々な人工、天然のナノ構造体を利用して分子間に働く相互作用を空間特異的に制御することにより、いくつかの新しい化学反応や新現象を見いだした。
三次元の分子間相互作用を駆使した研究成果としては、「記憶を持つ分子」の開拓があげられる。相田教授は、可逆的な多重水素結合を介してゲスト分子の立体構造を読みとり、ゲストが解離した後でもその情報を記憶できるはじめてのホスト分子を開拓した。また、この形状記憶の考え方を「タンパクの鋳型触媒作用」にも発展させ、ある種のタンパクがその空間形態を決めている鋳型分子に類似の基質に対して抗体触媒に匹敵する高い触媒活性を示すことを見いだした。さらに、これらの基本的な考え方を「ナノスケールの物質合成」へと展開した。即ち、特別
なシリカゲルが提供するまっすぐに延びたナノ細孔の中で高分子合成を行い、分子鎖一本一本が一方向に完全配向した世の中で最も細い10万分の3ミリの合成繊維を得た。セルロースや蜘蛛の糸など天然の結晶性繊維の生合成過程を模倣したこの方法論は、反応容器の形状が生成物の構造に空間特異的に転写されたはじめての例を提供した。
一方、上記のアプローチとは逆に、相田教授はデンドリマーと呼ばれる樹木状ナノ構造体を利用して、分子間相互作用が抑制された閉鎖空間を実現し、その中で極めてユニークなエネルギー変換反応が起こることを見いだした。即ち、巨大な球状デンドリマーが低エネルギーフォトンを効率よく捕集し、そのエネルギーを分子中央部に集め、ある種の化学反応を誘起するという新現象である。この現象は、新しいエネルギー変換技術の開拓につながるものと期待されている。
以上のように、ナノ構造体を用いた分子間相互作用の制御に関する相田教授の研究成果
は極めて独創的であり、次世代の基礎科学と機能材料科学の発展に大きく貢献するものと高く評価され、本賞を贈るにふさわしいものである。
※所属名および役職は、受賞時のものです。
