
いま世界でもっともRFIDの導入が進んでいるヨーロッパでは、流通業のみならず製造業、物流業といったさまざまな業界にその導入が広がり、実際に活用による効果が出ています。RFID導入により、どのように市場が変化しているのか、今後の展開についてIBMはどのような見通しを持っているのか。ここでは、アナリストの調査結果やメトロ、DHLの事例を交え、ヨーロッパにおける最新のRFID動向や、RFIDが企業の収益向上に与える影響とシステム統合の重要性についてご説明します。
RFIDソリューションの導入効果と現状
アメリカの調査会社アバディーン・グループが昨年(2007年)夏に発表したレポートには、RFID技術を導入しプロセスを最適化することで、次のような効果があると書かれています。これについて、IBMも経験から同じ程度の効果があると見ており、また視点としても的確なものだと考えています。
- 無駄なプロセスの20%削減
- スループットの10%向上
- 労務費の15%削減
- 在庫金額の21%削減
RFIDソリューションを導入することで新しいデータを捉えることができるようになると、そこから新しい洞察(Insights)が生み出され、業務プロセスの変革や新しいビジネスサービスの創出を行うことができるようになります。導入にはタグやリーダーなどのコストがかかりますが、実際に導入効果が現れるまでには時間が必要ですから、どこからメリットが生まれるのか、最初の段階からビジョンを持っておくことが重要です。
RFIDソリューションの導入は、構想検証(Proof of Concept)、初期導入(Initial Deployments)を経て、ビジネス変革(Business Transformation)のステージに到達します。構想検証のステージではRFIDの読み取り率や精度はどうなのかといったことが、初期導入のステージでは読み取ったデータでなにをするのか、既存のシステムに統合できるのかといったことが問題になりますが、これまでの経験により、これらの問題にはすでに解決法が見出されているというのが現在の状況です。
RFIDの背景にある考え方というのは、まず、情物一致の世界を実現するということです。たとえば、コンテナが上海からロッテルダムまでどう動くのか、RFIDを使うことで実際の動きとシステム上のデータのギャップはどんどん小さくなります。こうして、現実世界とシステムが融合しマッピングできる世界を構築することが、RFIDの究極的な目的なのです。
図1. 情物一致の実現がRFIDの究極的な目的(ETH ZurichのE.Fleisch教授 資料より)

スイス・チューリッヒ工科大学(ETH Zurich)のフォライス(E.Fleisch)教授が考案した「物のインターネット(Internet of Things)」という概念があります。これは、物がお互いに通信、つまりコミュニケーションができる世界ですが、RFIDが実現しようとしている世界は、この「物のインターネット」に非常に近いといえるでしょう。
バーコードにも2次元のものやカラーのものが出てきており、情報量という点では格段に進歩しています。また、コスト、そしてコストパフォーマンスの点ではまだバーコードに分があるといえるでしょう。しかし、より高速でフレキシブルなシステムを構築したいなら、RFIDを選択すべきです。さらに、RFIDなら簡単に内容を書き換えることができるというメリットもあります。この特性を利用すれば、あとでご説明するDHLの温度タグのような新しいアプリケーションが実現可能となります。
ヨーロッパにおけるRFID事情
ここからは、ヨーロッパにおけるRFIDの導入事例を2つご紹介します。小売業のメトロと、国際物流のDHLの事例です。
メトロは、ヨーロッパや東ヨーロッパ、ロシアに展開する、世界第3位を誇るリテーラーです。同社では、RFIDを「リテーラーとしての基本的な業務を実現するための技術(basic enabling technology)」ととらえており、これにより「物のイントラネット」を構築することを目標としています。「物のイントラネット」とは、先ほどの「物のインターネット」をサプライチェーンの中で実現しようという取り組みです。2003年のRFID導入からすでに5年、同社では、より効率のいい統合化されたサプライチェーンを作り、製造、流通、販売を連動させ、販売と物流のプロセスを改善することに成功しています。
メトロでは、パレット単位でRFIDを貼付するところから始めましたが、これについてはすでにすべての流通センターと店舗で導入が完了しています。その後2006から2007年にはケースごとにRFIDを貼付する仕組みに発展させており、現在はファッションアイテムを中心に個品へのRFID貼付を試験している段階です。
図2.メトロの「物のイントラネット」(Metro Group 資料より)

ドイチェポスト傘下のDHLは、世界最大の国際宅配便運送会社です。同社で扱う荷物には、生鮮食料品や医薬品のように厳密な温度管理を要求されるものがあり、顧客が期待する品質水準を保証するニーズがありました。そこで考案されたのが、RFIDと温度センサーを組み合わせた、輸送中の温度モニタリングを可能にする仕組みです。品物に貼付される温度センサー付きのRFIDタグには、あらかじめ品物ごとの適切な温度や消費期限のようなデータを入力しておき、温度センサーから得られた数値と照合することで、チェックポイントごとに新鮮度をチェックすることができるのです。
この温度センサータグを利用すれば品質水準が保証されるだけでなく、たとえば新鮮度が予想以上に落ちてしまった場合、長距離輸送の予定を変更し、納入先を近い場所に変更する判断も可能です。また、新鮮度が完全に失われてしまった場合、そこから先の運送は経費のムダになるので、そこで廃棄するという判断をすることも可能になります。さらに、そういった場合でも、新しい商品をすぐに手配することで、納入すべき取り引き先への出荷に関しても時間的なロスを少なくすることができるのです。
図3. DHL「温度センサータグ」の仕組み

現在ヨーロッパは、RFIDに関してさまざまな動きが見られるエキサイティングな状況です。ここでご紹介した例だけでなく、自動車業界などはコンテナにRFIDを利用してコスト削減に成功していますし、航空業界でも同様の取り組みが行われています。
RFIDを用いて情報を収集し、洞察(Insights)を得ることでイノベーションが可能になります。ビジネスプロセスを改善しコスト削減を最大化するためには可視化が必須ですが、これまで、サプライヤー側からはリテーラーの動きが、リテーラー側からはサプライヤーの動きが見えない状況でした。RFIDは、サプライチェーン全体での可視性を高めるのに役立ちます。IBMは、RFIDなどのAuto-IDに関する経験と実績があり、コンテナ・マネジメントやマテリアル・フローなどをも組み合わせることができるスケーラブルなRFIDソリューションをご提供しています。
筆者紹介
ドイツIBM
IBMセンサー&アクチュエイターソリューションズEBO
AutoID ビジネスソリューション エグゼクティブ
カート・リンデル
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