
二極化する消費財市場でメーカーが成長し続けるためには、購買者を理解し、購買者起点経営へと変革を行うことが必要です。購買者一人一人の購買行動や価値観を分析し、マーケティングに活用していく改革(=コンシューマセントリック・マーケティング:Consumer Centric Marketing)は、今後、消費財メーカーが成長する上で最も重要な戦略テーマになると考えます。ここでは、消費財メーカーがコンシューマセントリック・マーケティングを進めるためには、何が必要かについてご説明します。
従来のマーケティング手法の問題点
日本の消費財市場は、今後ますます二極化が進行します。市場の二極化は、「値段がより安く、機能・品質が十分である製品を選択する」、「他と明らかに違う価値を認めれば、高級ブランドに喜んでお金をかける」という両極にある購買行動を、「一人の購買者が価値観に応じて使い分ける」ことによって生じています。したがって、今後、消費財メーカーが成長し続けるためには、「どのような価値観を持つ購買者に対して、どのような場面で、どのような価値を提供した結果、購買されたのか」を的確に把握し、それを経営活動に反映させていくこと、つまり「購買者起点経営への変革」が必要不可欠です。その意味で、購買者一人一人の購買行動や価値観を分析するコンシューマセントリック・マーケティング(以下、CCM)をいかしたマーケティング改革は、消費財メーカーが成長する上で最も重要な戦略テーマとなるでしょう。
従来のマーケティング手法の問題点は、次の5つにまとめることができます。
- 検証が不十分なままの製品コンセプト
- 消費者の多様化に追いつけない広告宣伝
- 値引きに頼る販売手法
- 誰が買ったのかが不明
- なぜ売れたのか、あるいは売れなかったのか、分析が不十分
図1. 従来のマーケティング・プロセスの問題点

(出典:IBM Institute for Business Value)
これでは、「明確に定められた購買者層に対して、適切な製品を、適切な販売方法と価格で提供する」という一貫性を持ったシナリオを作成することができません。この問題点を克服するためには、
- これまで以上に購買者および購買行動に関わる情報を広く収集する
- 科学的分析手法を用いてターゲットとすべき購買者層を決める
- 購買者像に関する仮説を立案し、製品・広告宣伝・販売促進を企画実行する
- 期待通りの成果があったのかどうかを検証し、次の仮説立案に生かす
※1から4を繰り返す
という「プロセス」と「情報」の両面の改革が必要であると考えられます。
FSPデータを生かすために必要な能力
現在、大手小売りを中心にFSP(Frequent Shoppers' Program)の導入が進んでいます。FSPとは、購買者を特定できるポイントカードで、消費材メーカーが製品を開発する、あるいは発売後製品にブランドコントロールする局面において、価値ある情報を提供してくれます。FSPを分析することによって、たとえばPOSやアンケート調査データからでは知ることのできない、次のような情報を得ることができるようになります。
- 販売チャネル、価格、エリア、日・時などに応じて変化する購買者の特性
- トライアル購買者、リピート購買者の特性
- 低価格にしか反応しない購買者
- いっしょにどのような品物が買われているのか
FSPデータを的確に分析し、マーケティングのプロセスに生かすのが、CCMということになります。
図2. CCMのプロセス

(出典:IBM Institute for Business Value)
しかし、CCMのために必要なFSPデータの分析を行うには、特別な能力が必要になります。
それは、次のような4つの能力です。
能力1:統計分類手法を使ったターゲット購買者層の設定
従来のターゲット購買者の定め方は、購買者属性(性別・年齢)などの違いによって、購買数量に差があるのか否かといった傾向を見つけ、グルーピングを行うものでした。しかし、このような方法は作業者の持つ経験・勘・仮説に頼ったものでした。統計的分類手法である「クラスタリング」を使えば、精度の高いグルーピングが可能となります。
能力2:購買行動に関する仮説設計
ターゲット購買者をグルーピングしたら、ペルソナ設定(=購買者像を定義)をします。その際、従来のインタビューやネット・リサーチに加え、「バスケット分析」を行うことで、設定をより正確なものにすることができます。購買者像を緻密に定義し、購買行動(ジャーニーマップ)を想定して提供価値を抽出していくことで、ターゲットへのリーチ率およびヒット率が向上します。
能力3:仮説検証サイクル
ペルソナ・シナリオ手法が仮説である以上、検証により精度を高めていくという活動は必須です。FSPデータで検証を行うことで、現在設定している購買者ターゲット、価格などの組み合わせを最適なものに変更していくことが可能となります。また、そこで得られた知見は、次の製品改良や新製品開発にも生かすことができます。
能力4:購買行動およびニーズ変化の推察
購買者のライフステージの変化(結婚、出産、リタイアなど)に合わせて、購買行動やニーズは変化していきます。FSPで取得した購買者情報や購買履歴などからペルソナを再定義し、購買者のニーズに基づいた具体的な行動を事前に推察します。その結果、適切なタイミングで、ニーズに合った商品を提案していくことが可能となります。
これから消費財メーカーに必要なこと
多くの消費財メーカーは、マーケティング・リサーチと称して、購買者特性の分析についてさまざまな取り組みを行ってきました。しかし、CCMは、「マス」ではなく「個客」を理解することを起点にしているという点において、これまでの手法とは一線を画します。しかし、CCMは一朝一夕に可能なものではありません。CCMを有効に活用できるようになるためには、最初のほうで説明したとおり、「プロセス」と「情報」の両面の改革が必要となります。
図3. マーケティング・プロセスの成長モデル

(出典:IBM Institute for Business Value)
FSPデータを活用する土台として、ブランドマーケティングの業務プロセスも見直すことも効果的です。IBMは、ベストプラクティスとして製品企画から発売、終売を迎えるまでのライフサイクル全体における業務テンプレート(CCMプロセステンプレート)を作成しています。このテンプレートと比較し改革機会を見つけることで、効果のない新製品開発を抑制したり、効果のない広告費や値引き費用を抑えたりすることが可能となります。
図4. ブランドマーケティングのプロセステンプレート

テンプレートだけでなく、IBMでは、FSPデータ分析について高いスキルを有し、過去にはデータマイニング手法の発明をも行っています。これらのスキルを駆使し、お客様ビジネスにおける実際の意思決定をご支援していきます。
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筆者紹介
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業
コンサルティング&SI
流通サービス事業部
マネージング・コンサルタント
久住 善行
本記事中に記載の数値や固有名詞等は初掲載当時のものであり、閲覧される時点では、変更されている可能性があることをご了承ください。

