
新製品開発で今後直面するであろう課題に対処するために、消費財メーカーにはどのような備えが必要なのでしょうか。
ここでは、IBMの新製品開発・導入に関するグローバル・エキスパートであるトレバー・デービスが、リーディング・カンパニーは新製品開発において何を実践しているかについて、事例を交えながらご説明します。まず、その前編として、主な課題を我々がどのように理解しているかについてお話ししましょう。
リーディング・カンパニーは新製品開発において何を実践しているか(後編)を読む
人口増加が新製品開発に与える影響
私は消費財業界における新製品開発に関するIBMのグローバル・エキスパートとして過去20年ほど、ユニリーバ、クラフト、ネスレ、マーズ(*1)をはじめ数々の企業の新製品開発・導入に関わってきました。その前は10年以上、新製品開発に関する研究者として過ごしました。ここでは、それらの活動で得た私の知識と経験をお話ししたいと思います。
今後の市場環境を考えた時、消費財メーカーは、新製品を開発する上で、これまでとは違うさまざまな課題に直面すると考えられます。例えば、2050年までに世界人口が90億人に達するという見通しがあります。90億という人口は、土地をめぐる競争、その土地で採れる食べものをめぐる競争、人が食べる作物を育てるための水をめぐる競争、燃料をめぐる競争などを引き起こす要因になると考えられます。
人口が90億人に達するような未来は、現在と2つの点で根本的に違ったものとなります。1つ目は、2,500万人、3,000万人規模の巨大都市が現れることです。巨大都市には、あらゆる経済的階層の人々が住むことになります。中流より上の世帯は現在と変わらない生活を続けますが、一方で標準的な消費水準を維持できない、それを目指すことさえできないような経済的階層の人々がますます増えると考えられます。
そういった未来では、ターゲット・ユーザーに適合させた製品が売り上げを伸ばします。消費財メーカーは、そのさまざまなユーザー層に合わせて製品を作り届ける方法を見つけなければならなりません。安い素材を使う、グレードを下げる、あるいは安いパッケージを使うといった工夫で、低所得層の人々に向けた製品をも開発していかなければなりません。
2つ目は、人口が爆発することで水不足が深刻化するだろうということです。そのような世界では、生産プロセスを見直したり、プラスチック製造や包装材料製造などの工程に合わせて純度の違う水を使ったりする必要がでてきます。水を世界中に出荷するにはコストがかかるという問題もありますから、水分を含まない製品を作る必要があるかもしれません。
19世紀半ばの産業革命から21世紀初頭までの100から150年くらいの間に、人々が行うあらゆる物事のコストに、規模の経済が大きく働くようになりました。グローバル市場の労働人口の増加にともない、規模の経済によるメリットは定着します。しかし、このまま人口が増え続けると資源をめぐって競争が起こり、資源価格も上昇するはずです。これまでは一次産品価格は下がっていきましたが、今後20から30年後には現在の2倍くらいの価格になることも考えられます。
人口増加が新製品開発に与える影響

*1 正式社名はそれぞれ、ユニリーバN.V.PLC、クラフト・フーヅ、ネスレS.A.、マーズInc.
消費財業界における新製品開発の3つの課題
新製品開発・導入の専門家の立場から消費財業界を考えたとき、今後3つの課題が生まれるのではないかと考えています。
- レレバントな製品の設計
- 低コストかつ持続可能な製品とパッケージ
- オープン・イノベーションとクローズド・イノベーションとのバランス
第1が最終的な製品に至るまでのインサイトに基づいて、消費者に対してレレバントな製品を設計するという課題です。レレバントとは、「ターゲットとなる消費者が、その製品が自分の関心やニーズに合っていると感じるような」といった意味です。
第2が、低コストで持続可能な新製品と新パッケージを設計することです。
第3は、消費財メーカーに加え小売業者やサプライヤーをも含めた広範な環境において、どのようにコラボレーションするかを学ぶことです。今後10から20年には、広範な環境で行われること(オープン・イノベーション)と内部的に行われること(クローズド・イノベーション)とのバランスを見直すこと、つまりオープンでコラボレーティブなイノベーションへの移行が求められるでしょう。
新製品開発のエンド・ツー・エンドのプロセス結合
よりレレバントな製品を開発するためにもっと意義深い新たなインサイトが必要だとしたら、それはどうすれば得られるでしょうか。そのために、Webサイトに目を向ける企業が増えています。消費者が何を話題にしているか、自社の製品とブランドについてどのような会話がなされているかを直接確かめることは、コンシューマー・インサイトを理解する上でいままで以上に重要です。マーズ、クラフトといった企業はすでに高度なテキスト分析ツールを活用し、Webサイト上の会話を読み解くことによって技術的インサイトとコンシューマー・インサイトを得ています。
新製品開発プロセスはどうでしょう。エンド・ツー・エンドのプロセス結合を真に実践している企業は世界中でごくわずかです。しかし、各プロセスそのものにおいても、また全段階でコストとムダを排除した製品を作るという意味でも、プロセス結合は低コストでできる最も効果的な方法であることは以前より知られています。コンシューマー・インサイトの獲得から、その製品が市場から撤退する時点まで、全体を通して一層のプロセス結合に努めることが不可欠です。現在、SAPなどの会社がこの市場にソフトウェアを投入してきており、それらのテクノロジーがすでに成果を上げています。
新製品開発ではエンド・ツー・エンドのプロセス結合が必要 説明図

最後に、重要なベスト・プラクティスとして、組織そのものの中だけでステージとゲートを使うクローズド・イノベーションから、よりオープンでコラボレーティブな形態のイノベーションへと移行したプロクター・アンド・ギャンブル(以下、P&G)の例をご紹介しておきましょう。
P&Gは、"つながって開発する(Connect and Develop)"というスローガンのもとでこれを実践することで、R&Dコストを劇的に削減し、製品を非常にすばやく市場投入できる極めて高度な外部ベンチャー組織を発展させてきました。実は、P&Gはこれを実施する際に自社の計画プロセスを捨て去る必要はありませんでした。代わりにP&Gが行ったのは、外部からのアイディアを新製品開発プロセスへと迅速に発展させる方法を見つけることだったのです。
P&Gにおけるオープン・イノベーション進化の様子 説明図

筆者紹介

IBMコーポレーション
新製品開発・導入グローバル・エキスパート
トレバー・デービス博士
リーディング・カンパニーは新製品開発において何を実践しているか(後編)を読む
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