
小売業にとって売上の鍵を握る品揃え。多様化する顧客ニーズを正しく捉え、それに対応した最適な品揃えを実現することは、厳しい経営環境を勝ち抜く上でますます重要になっています。しかし、POSやポイントカードなどが普及して、販売情報が収集しやすくなる一方で、蓄積した情報を有効活用しているチェーン・ストアはごく一部にすぎません。
そこでIBMでは、品揃え最適化へのアプローチの一つとして、売上や顧客に関連する情報を基に、チェーン・ストアの店舗をグループ化して、グループごとに品揃えを最適化していくというソリューションの提供を始めました。
今回のソリューションの概要について、ビジネス・アナリティクス・アンド・オプティマイゼーション(Business Analytics and Optimization:BAO)に所属するマネージング・コンサルタント 渡辺 圭吾が説明します。
情報の活用力の差が、小売業の業績の差に
――顧客のニーズがますます多様化する中で、チェーン・ストアにはどのような課題があるのでしょうか?
昨今の厳しい経営環境の中、チェーン・ストアでも従来のやり方では既存店の売上アップが難しくなっており、限られた売り場にいかに売れ筋商品を継続的に品揃えするかがこれまで以上に求められています。しかし実際には、過去の経験則や思い込みにより、変化する顧客のニーズが正しく捉えられず、各店舗の顧客ニーズに対応した品揃えが十分に実現できてないといった課題がありました。
その一方で、情報量は爆発的に増えています。ある調査によると、企業内に蓄積されているデータは、5年間で10倍に膨らみました。小売業においても、店頭のPOSデータのみならず、ポイントカードの履歴などから刻々と情報が収集されています。さらに少し視野を広げれば、ネット上のブログなどにも店舗・商品についての情報が掲載され、まさに情報はあふれるほど増えているのです。
図1 情報活用の実態
――情報量が多いということは、一概に悪いことではないようにも思えますか?
問題は、蓄積された情報を活用できているかどうかという点です。あるアンケート調査によると、情報を有効活用できている企業はわずか13%にすぎません。 69%の企業は検討中もしくは未対応であり、残りの18%の企業は、情報活用の有用性さえ認識していない状況です。
この結果から、情報を有効活用して、競争力の強化に取り組んでいる先進的な小売業と、そうでない小売業との間では、今後ますます差が開くことが予測されます。
――では、先進的なチェーン・ストアでは、どのように情報を活用しているのですか?
米国の家電小売大手や化粧品販売大手では、顧客情報や売上情報を基に、店舗をグループ化して、グループごとに最適な品揃えを徹底させることで、大きな効果を上げています。今後、こうした取り組みはますます活発になっていくでしょう。
――米国の事例ということですが、日本の小売業も同じような状況なのでしょうか?
先ほどのアンケートは、日本では実施していませんが、多くの小売業のお客様とお話しさせていただいてきた感触からすると、同じような状況にあると考えて間違いないと思います。実際、先進的なチェーン・ストアでは、こうした状況に危機感を持ち、意欲的に情報活用の取り組みを進めています。
チェーン・ストアの「品揃え」にフォーカス
――とはいえ、実際に情報を活用して効果を上げていくのは、そう簡単ではないと思いますが、どんなアプローチが考えられるのでしょうか?
一般に小売業には「商品政策・商品計画」「商品開発」「品揃え」「発注・仕入」「在庫管理」「物流・配送」「販売促進」「販売」というバリュー・チェーンがあります。この各プロセスにそれぞれ課題が存在しているでしょう。具体的には、PB(プライベート・ブランド)商品開発や、NB(ナショナル・ブランド)商品採用、カテゴリー・マネジメント、サプライ・チェーンの最適化、顧客情報収集、顧客サービス向上といった課題です。
本来であれば、すべての領域で改革を進めていくことが理想でしょうが、一気に解決するのは困難ですし、現実的でもありません。確実に改革できる領域からスタートするべきでしょう。そこで私たちは「品揃え」の領域にフォーカスし、チェーン・ストアで起こっている「来店者と商品の品揃え」の問題を解決しようと考えました。
――ということは、チェーン・ストア限定のソリューションということになるのでしょうか?
そういうわけではありません。ただ、後から詳しく説明するように、店舗クラスタリングという手法を用いて、店舗を幾つかのグループに分類し、グループごとに品揃えを最適化していくという手法を使います。ですから、コンビニやスーパーなど、お店の数が多いチェーン・ストアほど大きな効果が期待できます。
今回の提案を私たちは「店舗クラスタリングを活用した商品改廃」ソリューションと呼んでいますが、要は「品揃え最適化」ソリューションとお考えください。
多変量解析により店舗をグループ化して、グループごとに品揃えを最適化

図2 ソリューションの概要
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――「品揃え最適化」ソリューションの全体像について説明してもらえますか?
図に、今回のソリューションの概要を示します。大きく4つのステップがあり、それを回すことで最適化を進めていきます。
――ステップごとに説明していただけますか?
最初のステップは「店舗のグループ化」です。その基準となるのは、例えば、午前8時台に何人の来店者があったのかという「時間帯別客数」や、ある商品が来店者数に対してどれだけ売れたのかといった「商品カテゴリーPI値」などです。Purchase Index(PI)値とは、小売業でよく使われる指数の一つであり、例えば、1000人の来店客があって、あるハンカチが20枚売れたとすれば、そのハンカチのPI値は「20」ということになります。
こうしたデータを基に店舗をグループ化していきますが、その際に見逃せないのが、店舗グループごとの来店者は、類似の購買パターンや嗜好性を持っていると考えられることです。
そして、このソリューションの最大のポイントが、クラスター分析と呼ばれる多変量解析の手法を用いて、店舗のグループ化を行うことです。従来、こうしたグループ分けは、人間の主観や経験に頼ることが多かったのですが、各店舗に蓄積されたデータに基づいて分析することで、精度の高いグループ分けが可能となっています。
――2番目のステップが「PI値の算出」ですね。
このステップでは、例えば「朝8時台に来店客が多くてソフト・ドリンクが売れるお店」や「お昼ごろに来店客のピークがあり、お弁当が売れるお店」というように、分類した店舗グループごとに、すべての商品のPI値を算出していきます。
――例えば、朝にソフト・ドリンクが売れるお店と、お昼お弁当が売れるお店では、PI値はまったく異なったものになり、グループごとに特徴が明確に分かれるということですね。
そうです。その結果を基に、3番目の「商品改廃」ステップにおいて、店舗グループごとにPI値の高い商品を優先的に品揃えしていくという作業を行います。なお、商品の改廃は、一度決めればいいというものではなく、例えば週次で行うなどして継続して最適化に努めます。
そして最後のステップが「結果の検証」です。実際の売上の伸びを検証して、再び最初のステップに戻り、このサイクルを回していきます。
――売れ筋商品を揃えて売上を伸ばすという手法は以前からあったかと思いますが、後編では、今回のソリューションが今までの手法とどう違うのか、詳しくお聞きしたいと思います。
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