去る2007年3月26~28日、アメリカ・ダラスにおいて『RFID World』が開かれました。 開催5年目の約200社が参加する大規模な展示会ですが、今年はアメリカFDA(食品医薬品局)からの指令により医薬品にトレーサビリティーを付加するといった規制にかかわる問題を意識したソリューションの展示が多いのが印象的でした。ここでは、イベントの概要とあわせて、アメリカIBMのRFIDに対する取り組みをご紹介し、事例を交えながら運輸業界での今後のRFID活用動向について考えてみたいと思います。
第5回を迎えたRFID World
アメリカで毎年行われているRFID Worldが、今年(2007年)もテキサス州ダラスにおいて、3月26~28日に開催されました。
RFIDに関する機器やソリューションの国際見本市であるRFID Worldは、すでに5年目を迎えたこともあり、現在の日本のようなお祭り的な雰囲気はもう少ないのですが、参加社はおよそ200社、スポンサー企業もIBMをはじめIntelやMotorola、SAP、SIEMENS、ThingMagicなど、イベントとしては大変盛況でした。

出展で目に付いたのは、大手企業の総合的な展示よりも、ひとつのソリューションやテクノロジーに特化したベンチャー企業のものでした。広い会場で、落ち着いて商談ができる雰囲気の中、ソリューションの傾向も、現実的な目の前の「マンデート」を意識したものが多かったように思います。「マンデート」とは「法律上の義務」といった意味合いですが、ここではアメリカFDA(食品医薬品局)による規制のことを指しています。FDAは流通の安全確保を目的に、2009年より販売される医薬品についてトレーサビリティーの確保を義務づけることを決めています。このトレーサビリティーを証明するためのRFIDを利用したソリューションの展示が多かったということです。そして、参加企業にはFDAからの指示だからというのではなく、これをビジネスチャンスとして積極的にとらえる取り組み姿勢が感じられました。
技術的なトレンドとして目を引いたひとつは、RFID信号の読み取り技術の向上です。陰に隠れているようなものでも、水に濡れているような場合でも、確実に信号を読み取る微少電波の読み取り技術をアピールしているブースが多数ありました。もうひとつは、小型化、省電力化です。現在、リーダーライターや読み取りアンテナはかなりの大きさで、読み取りゲートなどはかなり大きな設備になりますが、こういった機材の小型化、省電力化がかなり進んでいるようです。これにより、安価に多数のアンテナを設置することができるようになり、読み取りポイントの増加、可視化の精度向上というメリットが生まれます。さらに、RFIDに電池を組み合わせた、アクティブ・タグの展示も目に付きました。アクティブ・タグと無線LAN(IEEE802.11)を接続することで、少ないアンテナで位置を割り出すことができるようなソリューションの展示もあり、このアクティブ・タグは、一般のパッシブタイプのRFIDタグとは、また違った活用法が期待できそうです。
このダラスで行われたRFID Worldには、アメリカIBMもスポンサーとして参加し、ブースも出展しています。アメリカIBMには、RFIDに対応する専門のチームがあり、おもに次の8つの分野にフォーカスして対応していますが、これに合わせた展示を行なっています。
1. RFID for the Consumer Driven Supply Chain
CPFR(Collaborative Planning Forecasting and Replenishment:共同による需要予測と在庫補充)、VMI(Vender Managed Inventory:仕入先主導による在庫管理)などへの活用
2. Fleet Optimization
RFIDを物流の効率化に活用
3. RFID for Location Awareness & Safety
RFIDを人間に応用し、位置により安全を確認するような活用。
アクティブ・タグの利用も
4. RFID for Data Center Resource Management
大規模なマシンルームの機材管理、保管データの管理や持ち出し管理
5. RFID Asset Tracking for Healthcare
病院などの機材管理
6. RFID for Defense Solutions
国防への活用
7. RFID for Pharmaceutical Track & Trace
医薬品のトレーサビリティーの確保に活用
8. RFID for Work In Process Manufacturing
製造業における生産管理への活用
RFID Worldでは、展示だけでなく基調講演やセッションという形でたくさんのプレゼンテーションも行われましたが、そこで話題になったのは、ハードウェアやシステムの話、機器類と既存の情報システムをどうつなぐか、RFIDを利用して取得したデータをどう活用するか、といった分野でした。

先ほどの技術トレンドと重なりますが、シグネチャースポンサー(筆頭スポンサー)であるThingMagicの副社長、ケビン・アシュトン氏のプレゼンテーションでは、実際にRFIDタグを水の中に浸した状態で電波を読み取るデモが行われ、注目を集めていました。
運輸業界におけるRFIDの活用
RFID Worldとは離れますが、DHLが最近行ったRFIDによる温度管理の試験例をご紹介しましょう。これにはIBMも協力しています。DHLは、主に航空機で貨物を運びますが、航空コンテナの場合は、船のように冷蔵機能の高いコンテナが無いため温度が適切に保たれたかどうか不安です。また、厳しい温度管理が必要な薬品や生体物のようなものは、コンテナ内の温度ではなく、個品の温度をきちんと管理する必要があります。
そこで、DHLが試験を始めているのが、温度センサー付きのRFIDタグです。帯のような形状で、個品をパッケージした箱内に帯の温度センサー側の端を入れ、もう一方のRFIDタグのある側の端を箱の外に出しておきます。温度センサーのログはRFIDタグからいつでも読み出せる仕組みですから、DHLは荷主に対して、輸送中の温度に異常がなかったことを証明することができるというわけです。

また航空業界ではフィンランド航空(Finnair)が、ノキア製のRFIDリーダーが付いた携帯電話を地上作業を行う作業員に持たせ、作業指示や作業開始・終了報告を簡単かつ速やかに行えるようにしています。それにより、例えばこれまでは急な天候変化などに伴う運航スケジュールやゲートの変更が発生した場合、連絡や作業指示が電話やトランシーバーによるバタバタとした対応になっていたのですが、この仕組みの導入後は作業変更指示や作業進捗状況の可視化が大幅にはかれるようになったというわけです。
その結果、作業品質向上や作業員の最適配置、手順(コンプライアンス)に則った作業等が可能となり、より安全で定時な運航が実現されています。現場の作業員にとっても、使い慣れた携帯電話に作業指示受信、作業開始・終了報告機能が提供されることにより、PDAなど新たな機材なしで自分たちの作業が定着できるというメリットを享受することができました。
業務への拡張性の観点で言えば、チェックポイントとなる作業指示受け場所にキオスク端末を設置し、作業ポイントには作業開始・終了報告用RFIDタグを貼り付けるのみで作業管理対象を広げることができます。さらには、この携帯をRFIDタグが付いた対象物にタッチするだけで、機器や機材のトレーサビリティーを実現することもできるのです。
ここまで、海外のイベントや事例をご紹介してきましたが、日本の運輸業界は大変作業クオリティが高く、RFIDは効率化の面でのメリットが大きく取り上げられることが多いので、効率化だけを期待するとその効果もじつはあまり大きくはないのかもしれません。
しかし、これは今回のRFID Worldのセッションの中でも提議されたのですが、氷山にたとえれば効率化といったようなものはRFIDがもたらす効果のうち水面に出ている3%にしかすぎず、じつは先ほどご紹介したDHLの事例のように、新しいチャンスが水面下にまだ眠っているのです。効率化ではなく、カスタマーサービスのためにRFIDを導入する、コンプライアンスのために役立てるというように、RFIDをイノベーションのツールとしてとらえ、水面下の97%をも自分のものとすることが、今後RFIDを導入し上手に活用するためには絶対に必要なことだと考えられます。
図.氷山の一角:RFIDの本当の価値は、水面下に眠っている

筆者紹介
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業
バリューネット事業推進
営業開発 部長
末次 信治
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス
流通サービス事業部
航空・運輸・旅行インダストリー・ソリューション
清水 雅子
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