著者 : 高橋 利彦
掲載日 : 2009年7月15日
1 グローバル化は両刃の剣
情報技術と通信の絶え間ない発展により、グローバリゼーションは一層加速し、企業をとりまく競争環境は激化する。一方、地球規模で解決策が求められるマクロな課題も顕在化するなどグローバル時代は新しい段階に移行しつつある。
IBM Institute for Business Value(以下、IBVと略)では、2007年にグローバル化が銀行業界に与える影響を判断するための調査を実施している。調査対象となったいずれの市場においても、今後5年での最大の成長機会として、新しい市場への拡大が挙げられた。日本の大手金融機関においても、海外事業を成長機会ととらえ、特に今後高い成長が期待されるアジアを重視する戦略が策定されている。
一方、今回の金融危機はグローバル化の負の側面も顕在化している。従来であれば、米国のサブプライムローン問題は、国内問題になったであろう。しかし、住宅ローン債権が証券化により金融商品に組み込まれ、世界中に販売されていたため、その影響は急速に世界中に広がった。金融機関における証券化商品による損失拡大により、金融機関間の信用不安が高まり、海外では取り付け騒ぎや破綻も続出し、流動性危機への対応のため、世界中で公的資金注入や国有化などの対策がとられた。米国のサブプライムローン問題は、世界的な金融危機へと拡大した。
2 今後は波乱に対処する能力が重要となる
このような環境下で、世界の銀行業界のCEOは将来についてどのように考えているのだろうか?IBMが世界の主要企業1,130社のCEO(最高経営責任者)を対象に実施したインタビュー調査「IBM Global CEO Study 2008」の中の銀行からの回答によると銀行業界は"波乱の時代"に突入しており、集約すると以下のような意見が述べられている。
- 変化は加速しつつあり、その影響は必ずしもポジティブなものとは限らない
- 顧客の要求は高まり、破壊的な影響を及ぼしている
- グローバル化は、両刃の剣である
- 市場のさらなる混乱は避けられない
- 成功には新たなビジネスモデル・イノベーションが不可欠である
- リーダーシップと社会の一員としての企業の責任が非常に重要である
マクロ経済と顧客の混乱に対処する能力が今後10年の重要な差別化要因となり、未来の金融機関は、ここで挙げた波乱にうまく取り組むための戦略、組織能力、ツールを備えることになると考えられる。
世界の金融システムは今回の金融危機により信頼感を大きく損なうこととなり、金融サービス業界は極めて重要な転換地点にあると考えられる。ビジネスモデルは、これまでよりもはるかに上回る資本、流動性、透明性を必要とする新たな環境に直ちに適応することが求められる。
3 波乱の時代における競争を勝ち抜くためには、専門特化のビジネスモデルが必要である
今回の金融危機はグローバルな経済が相互に接続され、依存しあっており、ひとつの国の金融機関が単独では存在しえない時代となっていることを明らかにした。銀行のグローバリゼーションに関するIBVの調査(『No bank is an island(銀行はみな孤島にあらず)』)によると、グローバル化への対応については多くの銀行がまだ準備不足であると感じている。グローバルな運営を目指しているユニバーサルバンクの51%が自らのグローバルな統合能力を低レベルと評価しており、全回答者では69%にまで上昇する。対応するためには、組織文化、コラボレーション、人材、行動様式などの面に課題があることが分かっている。銀行のエグゼクティブは、組織文化がグローバルな統合の最大の実現要因であることを明確に理解しているが、一方でそれがやっかいな障害になりうることも認識している。M&Aにより企業文化が大きく異なる金融機関が統合する場合や価値観の異なる世界各地の社員が力を合わせることは容易なことではない。
コラボレーションに関しては、銀行回答者の82%が今後は、戦略的なパートナーシップの利用をさらに拡大して、よりグローバルにネットワーク化された経済の中での競争に役立てていくことになると見込んでいる。そして全体のおよそ65%がテクノロジー会社やモバイル通信企業といった銀行以外の専門特化プロバイダーとの協力関係を拡大していくと予測している。
加えて世界の銀行経営者は、優秀な人材をめぐる戦いについて、最も気にかけている。我々の調査では回答者の73%が、今後5年間にわたって全世界の専門スキルをめぐる争奪戦がますます激化するであろうと予測している。そして行動様式については、とりわけ銀行経営者は、「グローバルな思考」(さまざまな市場全体にわたって最適となる組織およびデリバリー構造を実現する)と、「ローカルな行動」(個々の具体的な顧客ニーズを満たすとともに、顧客との個人的な接点を提供する)とのバランスを取らなければならなくなるであろう。
また、銀行回答者の大多数が、グローバル化された業界で競争するためには国境を越えて資産を活用し、より俊敏な方法で機能をまとめ上げ、業界全体にわたってよりオープンにコラボレーションすることが不可欠であることに合意している。
私たちが最新リサーチのためのインタビューを実施した際、銀行のエグゼクティブの方に「あなたの安眠を妨げるほどの懸念事項は何ですか?」という締めの質問をした所、約8割の方が今後のビジネスモデルについて不安を感じていると述べられている。これは今回の金融危機の影響があまりに大きくかつ急速に深刻化し、今後についての見通しがつき難いことによるようである。ある日本の金融機関のエグゼクティブは現在策定中の中長期経営計画の前提が大きく変化することが悩みの種であると率直に語られた。
今回の金融危機におけるリスクの波及は極めて深刻であったため、今後規制は強化される方向にあると考えられる。また、過去投資銀行業務で得ていたような高いレバレッジによる高いリターンはもう得られないと考えられている。
このような環境の中で、今後、金融機関はビジネスモデルを選択する際に、自らに適さないビジネスを切り離すようになり、それぞれのカテゴリーにおいて、大手金融機関と専門金融機関に二極化され、中間に位置する金融機関にとっては存続が厳しいバーベル型の市場勢力図になると思われる。ニッチ市場を狙う金融機関は、戦略のない分野から撤退し、地理的なフォーカス、優れた商品の設定、顧客セグメントなど、真の差別化を実現できる市場に焦点を絞ることで成長していくことになるであろう。
4 本邦金融機関は新グローバル時代への備えができているか?
以上に述べた新グローバル時代において、本邦金融機関は今後どのような対応をとるべきであろうか?私たちのグローバリゼーションに関する調査では、日本は低成長・低リスクの市場であると位置付けられている。この環境の中で更なる成長を追及するためには、グローバル化の機会をうまく捉え、かつ脅威にうまく対応することが重要となってくると思われる。
一方、金融危機の本邦金融機関への影響は、当初予想していたより次第に大きくなり、業績にも深刻な影響を及ぼしてきている。当面は、資本増強を図り、コスト削減を進めると思われるが、その後は勝ち残りのために以下の5つの重要分野にフォーカスする必要があると考えられる。1)資本と流動性、2)コストと複雑性、3)リスクと透明性、4)M&Aと事業売却、5)顧客
本邦金融機関が、今回の金融危機を海外の金融機関より先に乗り切り、国内のみならずグローバルな経済の潤滑油の役割を果たすことが期待される。そして、国際金融市場でのプレゼンスを高める上でも、波乱の時代は、本邦金融機関の世界への復活のまたとないチャンスと前向きにとらえたいが、その備えはできているであろうか?
波乱の時代には、自らの強みに専門特化してコラボレーションを進める、新たなビジネスモデルの構築が求められる。そのためには、迅速な対応の実現に向け、複雑性を排したビジネスモデルの抜本的な簡素化と、より良い顧客サービスの提供に向けたお客様中心型モデルへの移行が必要になると考えられる。
新グローバル時代の銀行経営―波乱の時代のビジネスモデル―
オリジナルWhite Paperはこちらから (247KB) (注)当内容は、2009年7月現在のものとなります。
著者について
高橋 利彦
日本アイ・ビー・エム株式会社 金融サービス事業部
IBM Institute for Business Value(IBV) Banking Thought Leader
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