著者 : 上田 聡
掲載日 : 2010年12月1日
金融資産残高1億円前後の残高を持つ富裕層は、超富裕層とマス富裕層の間に取り残され、彼らに合わせた対応も遅れています。退職や相続などにより、団塊の世代を中心に富裕層は増えてきており、金融機関にとっては今後重要な顧客層であると考えます。彼らが満足するサービスを提供するためには、ひとりひとりの顧客が「(私を)分かってくれている」と感じるサービスを実現しなくてはなりません。そのためには今までよりも多様な顧客のデータを集め、分析する仕組みを考える必要があります。
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1 富裕層へのアプローチ
金融資産残高1億円前後の残高を持つ富裕層は、今後団塊の世代を中心に退職や親からの相続などにより増加してくるものと予想されます。これら富裕層の中には従来は非リスク商品での運用を中心に行なってきたものの、資産の増加に伴いリスク商品の運用を検討し始めている人が多いと考えられます。
我々の調査では、富裕層が金融機関に求めるサービスの優先度で「公正なアドバイスと最高の顧客サービス」が一番に挙げられました(IBM/CFA Institute Survey 2008, IBM Institute for Business Value analysis)。自分のことを良く理解し、自分に合った「アドバイス」を金融機関から提供してもらうことを彼らは金融機関とのお付き合いの中で重要であると考えているのです。
しかしながら、金融資産残高が5億円を超えるような超富裕層が営業担当者との対面による手厚いサービスを受け、一方金融資産残高数千万までのマス富裕層に対してはオンラインによる効率的なサービス提供がなされている中、その間に位置する残高1億円前後の富裕層に対しては、その資産規模に見合った十分なサービスが提供出来ておらず、早急な対応が必要だという認識が、国内外の金融機関で広がってきているようです。
マス富裕層とは差別化した、ヒューマンタッチなサービスを超富裕層のように人的コストをかけないで効率的に実現するためには、顧客のことを良く知る助けとなる多様な情報を収集・分析する上で、ITを上手く活用することが鍵となります。

図1 真実の瞬間に信頼を築く
(534KB)しかしながら、一口に富裕層とは言ってもそのプロファイルは様々であり、個々の顧客との接触力を高め、確実にニーズを掴んでいくためには、従来の顧客属性や取引情報などの限られた情報では不十分であり、顧客の生活や嗜好を網羅した情報を集めて活用することが必要になります。それにより、顧客と接点を持つ機会(=真実の瞬間)に「(この金融機関は)自分のことを良く分かっている」「自分のことを気にしていてくれる」と感じさせることにより、顧客との深い信頼関係を築いていくのです。(図1)
2 情報を集めて貯める−新しい情報収集チャネルの確立
ではまず、顧客の情報を集めて貯めるにはどの様なことを考えるべきでしょうか。富裕層といっても例えば企業オーナーや医者・弁護士などのプロフェッショナルな職業の人々は多忙であり資産運用にほとんど時間を割けないかもしれません。一方大手企業の一方大手企業の定年退職者は時間的に余裕があり、知識吸収意欲が旺盛であり、積極的に資産運用に関わりたいと考えている人もいるでしょう。

図2 顧客情報収集のチャネル
を広げる (875KB)従来の顧客情報収集のチャネルでは、超富裕層に対する対面営業を除いて、支店やコールセンター、オンライン取引などによる一律の対応であり、それぞれの顧客に合わせた情報を取るのには限界がありました。しかし、ソーシャルネットワークや通信機器の発達、それらを通じて得られた数値データだけでなく音声データや画像データの分析技術の向上により、今や膨大な顧客関連の電子データを収集することが可能となり、これら多様な情報の収集に向け、SNSやスマートフォン、コミュニティーの立ち上げなど新しいチャネルの確立が必要となりました。また、今後富裕層顧客に行き届いたアドバイスを提供するためには、クレジットカード会社や保険会社などの情報を活用した、これまでより幅広い「顧客のお金の流れ」を把握するための提携戦略の検討も考えられます。(図2)
3 情報を分析・活用する−タイプ別顧客情報交換のコミュニティーの場とつながる

図3 顧客コミュニティーとつな
ぐ (756KB)従来の金融機関は、営業活動のPDCA(plan-do-check-act)サイクルの中で過去の属性や取引データを分析して、今後の取引可能性の高い顧客層を決め、一方的に営業活動を行う場合が多かったと考えられます。しかし最近は、顧客自らが金利や手数料を検索比較し、最も有利な金融機関を選択できる機会が増えてきています。さらに顧客の間では、口コミやレビューなど他の顧客と意見や評価(=集合知)を交換する場がいくつも形成されるようになっています。金融機関は自身の情報に基づく取引サイクルだけでなく、顧客同士による情報交換の場と上手く結びつけることで、これまで得られなかった顧客からの知恵を生かすことができる仕組みを考えるべきでしょう。欧米では一般のコミュニティーネットワークの一員として金融機関が参加することで、企業→顧客という関係を強く意識させることなく、今までになかった意見収集ルートでさまざまなアイデアを入手し、自社のビジネス改善につなげています。金融機関が投資家のコミュニティー形成を働きかけ、市場分析ツールの提供などを行いながら、顧客同士の情報交換を支援しているものなどもあります。顧客の情報交換の場は、顧客のタイプごとに異なるいくつもの場があるため、タイプごとにコミュニケーションが発展する仕組みを考えなくてはならないでしょう。(図3)
4 まとめ
金融機関はチャネルを多様化することで、それぞれの富裕層に合わせたコミュニケーションの場を作り出し、顧客に自分の求める情報収集の機会を与える=金融機関の側からは多様な顧客からの情報収集のチャネルを作り出す必要があります。そして営業担当者が、舞台裏ではITを活用し、大量の顧客情報を収集・分析する支援を享受しながらも、富裕層顧客に対してはヒューマンタッチな質の高いアドバイスを提供することで、彼らの信頼を獲得していかねばなりません。
そのためには、金融機関がこれまでに蓄積してきた資産運用ノウハウと顧客が共有する資産運用に関する集合知を上手く融合させ、顧客に価値を提供することが成功の鍵といえるでしょう。
著者について
上田 聡
日本アイ・ビー・エム株式会社 金融サービス事業部
IBM Institute for Business Value(IBV) Financial Markets Thought Leader
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