(当記事は、日本金融通信社発行「ニッキン」2009年6月26日号に掲載されたIBM紙上セミナーの内容と同一となります。)
EBMが可能にするマーケティング新時代
金融業界の「EBM(イベント・ベースド・マーケティング)」に注がれる視線が急速に熱くなっている。多チャネルにおける顧客の発するわずかなサインを検知して、それを商品購入に結びつけるEBMは、これまでのマーケティングでは実現し得なかった強固なリレーションを生み出し、顧客とのコミュニケーションに変革をもたらそうとしている。その可能性、インパクトをアイ・ビー・エム ビジネスコンサルティング サービス株式会社金融コンサルティング事業本部長・蓑輪圭樹パートナーに聞いた。
金融ニーズ発生のサインをとらえる
――EBMとはどのようなマーケティング手法なのでしょうか。
「従来の金融機関におけるマーケティングは、端的にいえば『まず商品ありき』でした。ある商品があって、その商品を購入してもらえそうな顧客をセグメントして、DMやメール、訪問営業などで告知し、反応があればより具体的な情報を提供していくといったスタイルです。たとえば、資産運用商品の取り扱いを開始したので、これを1000万円以上の預金残高のある顧客におすすめしてみようといったアプローチです。しかし、たとえ多額の残高があっても、他の金融機関で同様の商品を購入したばかりであれば、しばらくは追加購入を控える可能性が高いでしょう。逆に自行の口座に100万円しか残高がなくても、他行にはかなりの額の預金をされている顧客もいるはずです」
「従来の手法では取りこぼしていたこうした『潜在顧客の金融ニーズを感知して、タイムリーにコミュニケーションする』というのがEBMの考え方です。顧客一人ひとりの経済状況、ニーズに合わせて最適の商品を提供する『ワン・トゥ・ワン・マーケティング』の理念を具現化したものといえるでしょう」
「なお、EBMの発想自体は、決して新しいものではありません。ATMが登場したころから、顧客のイベントを捕らえて適確にアプローチできれば理想的なマーケティングが行なえるに違いないと、幾度となく検討されてきたものです」
デジタル化されたサインを分析
――イベントとは具体的にどのようなものを指すのでしょう。
「たとえばある顧客が、『ATMやインターネット・バンキングを利用した』とします。私どもの分析では、その頻度や取引内容をイベントとして定義することによって、高い確率でカードローン利用につながることがわかっています。実際にこのタイミングでアプローチした金融機関では、カードローンの利用率が2倍以上に上昇したというデータも得られています」
「こうした『商品イベント』のほか、結婚、出産、退職などの『ライフステージイベント』、特定チャネルの初回利用、苦情発生といった『行動イベント』、金利環境の急変、税制の変更といった『外的要因イベント』も、顧客の次の行動を予測するサインとなります。もっとも、たとえイベントが検知できても、適切なチャネル、適切なタイミングでアプローチできなければ、収益増にはつながりません。私どもは、多数のお客様で効果が検証された『マーケティング・テンプレート』を保有しています。現行のEBMツールにもこのテンプレートは生かされており、いまなおブラッシュアップを続けています」
「実際、優秀な担当者は、顧客のちょっとした行動や言葉、取引データからその方の潜在ニーズを捉えて商品をご案内することで、高成績を達成してきていたはずです。EBMは、こうした担当者の知見をいわば『見える化』して、だれもが共有できるようにしたものといえます。IT技術の進化が、イベントとそれに呼応する顧客ニーズの相関関係を定量的に分析することを可能にしたのです。加えてインターネット・バンキングの普及によって顧客チャネルが増加したこと、また、クレジットカードの利用データを統合して顧客の消費行動をもイベントとして取り込むことができるようになりました。今、EBMが注目を集めているのは、『投資に見合った効果が期待できるツール』として現実のものになったからではないでしょうか」
競争を勝ち抜くためのEBMの役割
――金融業界は、いま大きな変革のただなかにあります。
「おっしゃるとおり、多くの商品を取り扱うようになった金融機関では商品ごと、サービスごとの差別化が可能になり、他業界以上に競争は熾烈になっています。しかし、金融機関が保有する顧客情報には住所や勤務先、メールアドレスはもとより、収入や嗜好、突発的なイベントの発生時期まで含まれており、他の業界から見ればうらやましい限りの充実ぶりです。その充実した顧客データを積極的に活用できれば、競争で優位に立てるだろうことは想像に難くありません」
「もちろん、マーケティングはデータの活用だけで成立するものではありません。その結果を検証し、次のプランを策定し再度実行するPDCAサイクルを回し続けてはじめて効果は生まれます。幸い私どもは、世界中の多くのお客様とお付き合いするなかで、EBMに基づいた業務改善をサポートするのに十分なノウハウを蓄積しています。EBM導入の効果をそれぞれの金融機関の特性に合わせて最大化する力があると自負しているところです」

アイ・ビー・エム ビジネスコンサルティング サービス株式会社
金融コンサルティング事業本部長
蓑輪 圭樹
銀行において国内外の経営企画・事業企画業務を担当した後、1997年に日本IBMコンサルティング事業部へ入社。2001年PwCコンサルティング株式会社との統合を経て現職。米国ニューヨーク大学スターンスクール(MBA)卒。
金融マーケティングの潮流—EBM実践への道のり—
