掲載月:2006年6月
ソリューション概要
消費者信用産業は、過剰与信の防止による消費者保護の徹底と、クレジットコスト削減の2つの目的から、自己破産を予測するモデルの構築に取り組んできました。しかし、自己破産の要因は多様であり、自己破産者を事前に察知するのは極めて困難とされていました。
IBMビジネスコンサルティングサービス(IBCS)ではこのたび、自己破産者への入念なヒアリングを実施し、自己破産に至るまでの過程で債務者が発生するシグナルの分析に取り組みました。ここでは、その概要をご紹介します。
企業・消費者双方にとっての喫緊の課題
自己破産件数は2003年の24万件をピークに減少傾向にあるとはいえ、いまだ年間20万もの自己破産者が出ていることも事実です。貸し手企業の貸倒れ償却額に占める自己破産の割合は4~7割と、依然貸倒れ償却の最大要因であることに変わりはなく、自己破産を予知し貸倒れ償却を少しでも減らす必要性は何ら低下していません。
また、グレーゾーン金利問題により上限金利の引き下げがいよいよ現実味を帯びつつあり、早急に事業コストの抜本的な見直しが必要となっています。上限金利引き下げに対応していくためにも自己破産対策は非常に重要といえます。さらに、消費者にとっても経済的・精神的に大きな苦痛を伴う自己破産の回避は大変重要な問題であることは言うまでもありません。
自己破産までの過程で発せられるシグナル
消費者金融専業、信販会社、クレジットカード会社各社は自己破産防止に熱心に取り組んでいます。しかし、自己破産は非常に見分けにくく、本当に効果のある施策が実施できている企業は限られていると思われます。
弊社では、貸し手企業および消費者の両者にとって不幸となる自己破産を未然に防ぐ試みとして、自己破産となった40名弱の方を対象に、昨年アンケートとインタビューを実施しました。調査結果をまとめていくにあたっては、まず借り手側(破産者)の視点で彼らの借り入れおよび返済に関する行動を確認し、それぞれの特徴をもとにパターン化を実施しました。
その結果、破産に至る過程で消費者から貸し手企業へ何らかのシグナルが発せられているパターンがあることが分かりました。これらのシグナルを見極めることで自己破産防止の対応策を講じることは可能であると考えられます。
以下、これらのシグナルを「借り入れ」と「返済」それぞれの面から考察した結果の一部をご紹介します。
図1 借入パターン
借入行動のパターンとシグナル
借入行動では、1.資金繰りに困る以前のキャッシングや各種ローンの利用状況、2.資金繰りが悪化してからの借入行動、の2点に注目しました。
ここでは、確認されたパターンのひとつをご紹介します[図1]。
急に資金繰りが悪化したグループ
パターン1.は、"健全なキャッシング利用者タイプ"に対して見られた借入行動です。このパターンの利用者は、もともとは延滞経験も無くクレジットカード・キャッシングを数十万円程度利用していました。
しかし、資金繰りが悪化した後は新たに他のカード会社2、3社から借り入れを徐々に増やし状況が悪化、その後は消費者金融3、4社からさらに借り入れを行い、最終的には計5、6社から新たに400万円前後を借り入れ自己破産に至っています。
特徴は、長らく安定していたカードの利用枚数・金額が、ある日を境に増え始めるところにあります。カードの使い方も、最初は一気に限度額一杯まで使うことは少なく、空き枠を残す傾向があります。
それまでキャッシングにしか利用していなかったカードをショッピングでも使い始め、1回払いが主だったものからリボ払いが多くなる(ショッピングを含む)等の変化が現れるケースも多く見られます。
その他では換金性の高い商品(人気のある高額家電製品や回数券セットなど)をカードショッピングや個品割賦で購入するのもこのグループの特徴的な行動です。
新規に申し込む順番は、カード・信販から消費者金融のパターンが多くなっています。また、金策にかけた期間は、カード・信販系への申し込みで1~2カ月、その後消費者金融系でさらに1~2カ月であり、時間的にもシグナルを察知することは十分可能と考えられます。
注:記載の借入件数、借入額には住宅ローン、事業資金ローンは含んでいません。以下同様。
返済行動のパターンとシグナル
図2 返済パターン
返済行動では、1.資金繰り悪化以前における増額返済や早期返済といった行動の有無、2.資金繰りが悪化した後の返済を続けるための行動、の2点に注目しました。
ここでは確認されたパターンのうち2つをご紹介します[図2]。
限りなく通常利用者に近いグループ
ひとつめのパターンは、"実直返済タイプ"に見られたものです。
このパターンの利用者は資金繰り悪化以前には延滞も無く、毎月の返済期日に自分で決めた額を返済しつつボーナス時期を中心に増額返済を行っていました。資金繰りが悪化した後も延滞することを何としても避けようと自らさまざまな行動を取っている点が特徴的です。
具体的な行動としては、ほぼ全員が返済する額を契約上の最低額へ変更した、あるいは金利のみの支払いへの変更の相談をした、などです。
また、家賃や管理費を滞納し返済に充てた、公共料金を滞納し返済に充てた、といったケースも相当数見られます。その他、家族・友人からお金を借りた、賃貸住居の場合安いところへ引っ越した、給料のよい仕事に転職した、時給のよいアルバイトをした等行動は多岐にわたります。
こうしたさまざまな行動を取った後、さらに返済に窮すると新たに他社から借り入れを行っています。
資金繰り悪化前の利用状況では複数のクレジットカードを中心に利用していたケースが多くなっています。また、カードショッピング、キャッシング、消費者金融のカードローン、および公共料金の支払優先順位では、まずカードショッピング、次がカードキャッシングという傾向があります。
さらにキャッシング用カードが複数ある場合は、長く使っているカードの支払いを優先するため、取引の浅いカードから延滞が発生する傾向
があります。したがってキャッシングカードが複数枚ある場合は、その中でも新しいカードの返済状況をウォッチすることが早期発見につながると考えられます。
増額・早期返済に努めるグループ
ふたつめのパターンは、"機動的返済タイプ"に見られたものです。
このパターンの特徴は、正常時に増額返済・早期返済といった機動的な返済を行っていたことです。
利用者には個人事業主、零細企業経営者やパート・アルバイトなど収入の不安定な者が多く、余裕が出た時は多めに返済するが金回りが悪い時は簡単に延滞してしまう傾向があります。
実際、本人が「資金繰りが悪化した」という以前であっても、平均すると年2回程度1カ月前後の延滞を起こしています。資金繰りが悪化した後は、機動的な返済は見られなくなり新しい借入から返済に回すことでしのぎますが、3カ月もするとそれも困難になり延滞に陥っています。
返済を続けるためにとった行動としては、利息のみの支払いの相談が一部に見られます。その他、借り入れ先企業に直接見えない部分では、親兄弟・親戚・友人等から借り入れた、アルバイトをした、仕入先への支払いの猶予を交渉した等の行動もあります。
このパターンでは、増額返済等の頻度・時期・額といったものが変わるときと他社への新規申し込みが現れる時期が重なるケースが多く見られます。
たとえば、正常時は年末に売上が増えると年明けには返済の回数・額をいつもより増やしていたが、資金繰りが悪くなると増額・早期の返済は行わず他の消費者金融から新たな借り入れをしている、といったケースです。
延滞発生・解消だけを見ていると手遅れに
なる可能性が高いのですが、返済パターンの変化と他社申し込み状況を観察することで、早い段階でシグナルを察知することが可能と思われます。
シグナル仮説の検証を通じた自己破産予知・管理ルールの整備が急務
IBCSでは、本稿でご紹介した内容をひとつの仮説として顧客の取引履歴とともに営業店やコールセンターに寄せられた顧客からの声等を分析し、各社独自の自己破産予知ルールを構築されることをご提言しております。
さらに、自己破産ルールに該当した顧客に対する外部信用情報の継続取得やカウンセリングといった業務管理ルールを整備することにより、見極め精度を上げつつ自己破産防止効果を高めることができると考えています。
金融機関様における自己破産の予知と貸倒れ償却を削減する施策の実現に向け、IBCSはさまざまなご提言とソリューションを組み合わせてご支援させていただきます。
本事例は特定のお客様での事例であり、すべてのお客様について同様の効果を実現することが可能なわけではありません。
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