掲載月:2006年3月
ソリューション概要
金融機関における重要課題のひとつとして、マーケティング強化への取り組みが始まっています。
従来のマーケティングでは、販売したい商品の対象顧客をセグメント分析して、アウトバウンド/インバウンドのキャンペーンとして管理していく手法が主流でした。
しかし、小売・流通や通信業界と違い、金融商品の購入頻度は高くないために、仮に購入見込みのある顧客セグメントであっても、セールスのタイミングをニーズに合わせて捉えていくことが非常に難しいのが実態です。
このように難しいといわれる金融マーケティングの新しい潮流として、海外の金融機関で実施されているイベント・ベースド・マーケティング(Event Based Marketing、以下EBM)が注目を集めています。
重要な意味をもつ「購入タイミング」
金融商品販売の特徴と従来手法の課題
EBMの基本的な考え方は、顧客ニーズのある商品やサービスをタイミングよく、最も適したチャネルで提供することにあります。
これは、CRMアプローチの時にも謳われたコンセプトでもありますが、現状ではシステム・サービスの提供範囲が限定されていることもあって、どちらかというと受動的な活用に留まるケースが多いのではないでしょうか。
また、マーケティング担当の方からは、次のような声が聞かれます。
- 「顧客に関する情報を蓄積し、顧客接点でそれを参照するだけではセールスにつながらない。もっとビジネス拡大に直結するようにアプローチできないか」
- 「アウトバウンド・キャンペーンとして対象を抽出し、積極的にマーケティングしているが、もう少し顧客側のニーズに合わせて(精度の高い)アプローチができないか」
などで、よくあるのが次のようなケースです。
データの分析結果を反映し、セールス対象として抽出された顧客に対して、2度、3度と営業アプローチをかけても結果が出ない場合、それ以降に同じ対象が抽出されても、担当者は「アプローチするだけ無駄」と考えがちです。
逆に言うと、似たような対象がキャンペーンのたびに抽出され、同じ商品・サービスの販促活動が一巡するといわゆるネタ切れ状態になり、セールスリードを増やせない悪循環に陥る危険性があります。
しかし、金融商品販売の実態としては、日用品などと違って毎日・毎月継続的に購入される商品が極めて限定的であり、逆に一度契約した後は、しばらく再購入が期待できない商品が数多くあります。つまり、金融においてはこの「購入タイミング」が、非常に重要な意味を持っているのです。
イベント・ベースド・マーケティングとは何か?

図1 業務概要
このような問題に対応して、EBMは金融機関側から販売したい商品・サービスを主体に、いわゆる購入確率の高い顧客(またはセグメント)をそのままメインターゲットにするのではなく、顧客がこのようにしてほしい、このような商品を知りたいといったニーズを金融機関との接点(発生する事象)の中から感知し、これをイベントとしてタイミングよく顧客へコミュニケーションを発信していくものです[図1]。
EBMは1.セグメンテーション層、2.イベント層、3.コミュニケーション・ルール層の3層で構成されており、どの顧客に(1)、どのタイミング
(2)でどこから(3)コミュニケーションするかを明確にして、マーケティング・プロセスを標準化する仕組みです。
新たな金融消費行動の兆候を見つけ出す
イベントの定義
EBMでいうイベントとは、「顧客が金融機関と接する中で発生する事象およびその変化」であり、その数多くの事象・変化から金融行動のトリガー(金融機関にとってのサービス提供機会)となるものを指します。
従って、顧客とのコンタクトの中から金融ニーズの発生・変化を表す、新たな金融消費行動の兆候を感知できるかどうかがキーポイントであり、金融消費行動の"見える化"を実装し、それをトリガーとしてマーケティングしようとするものです。
通常、イベント・ベースド・マーケティングというと、個人顧客の年代別の生活環境の変化(就職・結婚・子どもの誕生・転職・退職など)をイベントとして認識し、マーケティングを行うものと想定されることが多いと思われます。
しかし、実際のマーケティン
グ現場においては、顧客別のこのようなライフステージ・イベント情報の収集・メンテナンスに制限があり、真のビジネス機会のごく一部を検知しているに過ぎません。
イベントの分類と活用の意義

図2 イベントカテゴリー
EBMというアプローチでは、イベントをカテゴライズして、兆候を見つけ出す作業が必要となります。
イベントを構成するカテゴリーの一案として、ここでは1.商品イベント、2.ライフステージ・イベント、3.行動イベント、4.外的要因イベントの4種類に分類しています[図2]。
また、上記の種類ごとに、各々「発生イベント」と「変化イベント」に区分し、イベント全体を体系化するフレームワークを活用しています。もちろん、業態や金融機関に応じて特定するイベントは異なりますが、全体を網羅し、重要なイベントの確認のためにはこのようなフレームワークが不可欠です。
イベントは目的が明確になって初めて定義できるものであって、顧客と金融機関の間でのやりとりすべてが感知すべきイベントではありません。
従って、EBMの目的として顧客と何を実現するためにこのイベントを識別しようとしているかが重要になります。弊社では大きく、「セールス」、「サービス」および「リテンション」の3つの目的をベースとしてイベントを構築していくことを推奨しています。
これにより、商品・サービスをセールスする時だけでなく、重要顧客のリテンションやサービス・レベルの維持にも活用でき、顧客とのリレーションを構築するCRMの一手法と位置付けられています。
セールス・イベント(例)[図3]
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図3 イベント適用例
インターネット・バンキング・サイトにログインし、投信情報サイトにアクセス - 証券会社との大口仕向け・被仕向けや口座振替登録依頼
- 住宅ローンの期限前償還の照会
- クレジットカード利用額の変化
- 与信残高照会や借り入れ可能額照会
- 金利などの契約条件に関する照会やクレーム 等々
チャネル統合がシステム化のひとつの鍵に

図4 基本概念図
セールス対象顧客セグメントに対して、そのままアウトバウンドコールを実施するのではなく、インターネットのページや特定エリアへのアクセスなど顧客とのやりとりの中で発生するイベントを検知し、プロアクティブに顧客へメッセージを発信するようなEBMシステムも構築されています。
イベント情報の収集、定義イベントの検知および検知情報の返答機能を持つシステムを、既存のサブシステムやデータウェアハウスと連携させることでイベントをコントロールする仕組みとなります。
顧客へのメッセージを発信する際には、顧客ごとにどのチャネルから発信すべきかをルール化しておき、たとえば、インターネット利用者であれば、イベント発生をトリガーとして、インターネットとATMへのパーソナライズされたメッセージを提供することで顧客とのコミュニケーションを図る必要があります。
マーケティング・メッセージの発信はダイレクトセンターなどの特定のチャネルから限定的にコミュニケーションするのではなく、顧客のマルチチャネル化に合わせた展開のためにチャネル統合がより重要となってきています[図4]。
海外事例に見る、効果への期待
海外の銀行における導入事例からはEBMの高い効果が報告されています。
パイロットテストフェーズ
- イベントをトリガーとする4,000のセールス実施
- クロスセリングの平均コンバージョン率>8%
- 特に投資性商品販売に効果大
EBMシステム運用開始
- セールスのコンバージョン率 50%向上
- マス向けの投資性商品販売 20%増加
- 投資性商品の満期継続率 50%増加 等々
日本ではこの分野はまだ一部の金融機関しか試行されていませんが、断片的にはイベントの考え方をロジックに取り込んですでに業務を開始している金融機関も登場し始めています。
EBMは金融リテール・マーケティングのイノベーションとして期待される分野です。IBMではイベントの検証テストを通じてEBMを確立し、金融マーケティング変革の実現をご支援します。
本事例は特定のお客様での事例であり、すべてのお客様について同様の効果を実現することが可能なわけではありません。
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