掲載月 : 2010年6月
東京証券取引所の次世代株式売買システム「arrowhead」の登場から半年、日本市場での株式取引の本格的なスピード競争の幕が開けました。この高速化とともに、今後PTS(私設取引システム)の活性化に伴う取引の「場」の選択肢が広がることにより、将来的にはこれまでの何十倍、何百倍ものデータが行き交う、データの爆発が始まると予想されます。
このような市場環境の変化に対応していくためには、従来の手法の延長や拡大では難しくなると予想されます。
今後、金融機関は、急速に発展するITを味方につけ、これまでの競争型から新たな成長に向けた協業型のビジネス・モデルに変わることで、顧客に創造的価値の提供を続けていかなくてはならないと考えます。
求められる意識改革 百戦錬磨の高速プレーヤーとの競争
arrowheadにより東京証券取引所での株式売買スピードが欧米の主要取引所並みに高速化しました。これは、自動車レースで「未舗装だった道路が舗装道路に変わった」と例えられるのではないでしょうか。今まで車両の高速性能による差がつきにくい中で競争が行なわれていたものが、道路の整備によって、その差がより明確に結果に表われる…。国内レーサーは欧米でのレース経験が豊富な競争相手に一気に差をつけられる可能性があります。日本市場での経験しかない金融機関にとっては、市場取引に対する意識改革を行ない、全く新しい戦い方を考える必要があるでしょう。
変わるディーリングに「求められるスキル」
これまでは、経験豊富なディーラーが自身の知識を頼りにした売買で収益を上げてきました。しかし、1秒間に何十回、何百回の売買注文が行われる世界では、もはや人間が取引の最前線に立ち、一つ一つの売買の判断を下すことは難しくなります。取引の最前線はコンピューター同士の戦いとなり、人間は前線から一歩引いた所で戦略を立てる立場に変わるでしょう。
そのような中、欧米では市場系分野で求められるスキル、人材像が変わってきています。従来の拠り所であったトレーダーの経験や知恵から、リアルタイム処理やネットワークに関する知識が重要となり、異業種からの採用も含めこの領域に強い技術者やクオンツの獲得が、ディーリング・ビジネス成功の鍵を握るようになってきています。今後、日本でも同様なニーズの変化が起きると見込まれ、このような変化を見据えた市場系分野での人材獲得、スキル育成の再考が必要となるでしょう。
スピード化の次に来るのはデータの爆発

図1 取引所を巡るフェーズ進化
のステップ我々は、取引所をめぐる環境の変化は、(図1)のように3つのフェーズで変化していくと考えています。
- 高速取引市場の出現
- 複数のPTS市場などの拡大による同一銘柄取引の「場」の多極化
- 多極化された取引の「場」をつなぐインフラの整備
現在の日本はarrowheadの稼働を契機に、フェーズ1.の環境が、取引所だけでなく金融機関、そして機関投資家や個人顧客それぞれの立場で整備されつつある段階だと見ています。

図2 リアルタイムでのデータの高
速かつ大量処理今後決済インフラの集中化などによるPTSの発展に伴い、一つの銘柄を複数の取引の「場」で売買でき、その中で最適の取引を行うフェーズ2.へと、近い将来、環境は移行すると考えます。先行している米国の市場では2000年以降、フェーズ1.から2.に移ることで、単位時間のデータ増加に加え、複数の取引所での同一銘柄のデータの取得、さらにはオプション取引などの派生取引によるデータの発生など、データ件数は爆発的に増大し、現在その対応が非常に大きな課題になっています(図2)。
さらには、米国ではフェーズ3.への移行に伴い、高速化競争がこれまで資金力のある大手金融機関の独壇場であったものが、インフラ的なサービスの利用により中小の金融機関にも競争参入の機会が出てきたと言われており、データの爆発はますます加速するものと予想されます。日本でも同様の変遷が進んでいくのではないでしょうか。
多様化するデータによる新取引手法の可能性
「差別化を行なうには全部門にまたがるデータを存分に活用するための革新的な方法を見つけなければいけない。データは新たな“アルファ”であるのだから」―IBM CIO Study 2009より
現在、市場価格データだけでなく、ニュース文字情報や天気画像などさまざまな非構造化データの利用が検討されています。これらの情報が利用可能になることで、さまざまな全く新しい取引手法の開発可能性が広がると期待されます。
また、さらなる高速化の追求も止むことなく、昨今では取引の応答時間を議論する単位が、ミリ秒(千分の1秒)からマイクロ秒(百万分の1秒)へと移りつつあります。金融市場では、他分野で「リアルタイム」とみなされる「情報が通信ネットワークを伝わる時間」すら、その物理的な経路の長さによる伝達時間の長短に着目したスピード競争が展開されています。この高速化された環境の中を行き来する多種大量のデータをいかに上手く活用して新しいビジネスを展開するかが重要となります。
協業によるビジネス・モデル構築の時代へ

図3 新たな顧客提供価値の創出
(359KB)Adobe® Reader®が必要このように、これまでのサービス・レベルから次元が変わるような業務発展の可能性が広がる中、個々の金融機関ですべてのビジネスの流れ=バリューチェーンをカバーする投資開発を行うのは大変厳しい環境となります。一方では、クラウド・コンピューティングなどの発達により、他社と提携するオープン型のバリューチェーン形成が容易な環境に変わってきています。それぞれの金融機関が商品開発や顧客アドバイスなど自らの得意な分野に特化し、また、差別化よりも規模拡大によるコストダウンが優先されるバックオフィス業務については共同化を進めることにより、顧客への提供価値を高めることができると考えます。これまでの差別化する戦略も必要ですが、今後は協業体制戦略、すなわち「エゴからエコ(システム)へ」も、新次元のビジネス・モデル創生のために重要となってくるでのではないでしょうか(図3)。
(参照)
IBM CIO Studyご紹介Webサイト
IBM Institute for Business Valueによる、White Paper日本語版
大きな転換点を迎えた金融市場―金融機関のビジネス・モデルの新たな方向性― (439KB)Adobe® Reader®が必要
掲載されている情報は2010年6月現在のものです。内容は事前の予告なしに変更する場合があります。
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