掲載月 : 2009年9月
金融市場では取引所システムの高速化競争や取扱商品の多様化により、単位時間ごとに市場で飛び交う「データ量の爆発」が起きています。トレーディング手法の高速化で売買競争に勝ち、なおかつ、リスクの透明性やコンプライアンスの向上を図るためにも、「大量データの即時処理」は市場にかかわる金融機関にとって重大な課題です。米国で先行しているこのような状況は、2010年より東証の次世代システムが稼働する日本にも、やがて波及してくるでしょう。
Stream Computingは、これら課題の解決を支援する、画期的な技術です。「データ爆発」が先行している欧米金融機関の事例とともに、この先進技術を使った対応策をご紹介します。
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多様化・増大するデータに対処するために
J-SOXやe-文書法など内部統制の強化、ネットワーク通信量の増大を受け、企業内のデータは今後も増加し続けます。増大す るデータをいかに取得し、蓄え、活用するかは、重要なテーマです。ソリューションとしてこれに応えるのは高密度のサーバー、省スペースのデータベース、柔軟なデータ連携ツール、インダストリー別のデータ・モデル/データウェアハウス・モデル、分析/可視化ツール等です。中でも即時性が要求されるニュースおよび気象情報などの環境データや、ETCおよびSuica/PASMOの読み取り情報といった人間活動データをリアルタイム処理するために用意されているのがクラスター(複数サーバーが相互接続された構成)による高速処理を特長とするInfoSphere Streams(以下Streams)です。ここでは、金融市場データ処理へのStreamsの適用例をご紹介します。
ワトソン研究所で開発されたStreams とは

図1 InfoSphere Streams
(153KB)
Streamsは、IBMワトソン研究所で5年来開発されてきたミドルウェアであり、複数サーバーを仮想的に単一システムとして
取り扱える、高速コンピューティング・プラットフォームです(図1)。リアルタイムで連続的に流入する大量のストリーミング・データ(一件一件は大きくないものの、件数が多く連続的なデータ)を処理する業務をStream Computingと呼びますが、StreamsはこのStream Computingに特化したプラットフォームと言えます。Streamsでは、アプリケーションはより小さなプログラム部品(オペレーターと呼びます)単位で記述され、クラスター上に配置され、各オペレーターに協調して流れ作業をさせることで高速化を図ります。
近年のコンピューターは複数のCPUを備えることが一般的ですが、従来のオペレーティング・システムでは各CPUに別々の仕事をさせることしかできませんでした。Streamsは「流れ作業」の概念をシステムに持ち込むことで、複数のCPUに1つの業務を分担して処理させることで容易に処理の高速化ができるようになっています。
Streamsは金融市場データのように連続的に流入するデータを処理することに優れています。株式を例にとれば、東京証券取引所および大阪証券取引所からの時価データを受信し、日経225銘柄のみを取り出し、銘柄ごとにPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)を付加するような処理を容易に記述し実行することができ、プログラムの書き直しをせずにチューニングすることができます。
またStreamsにはStreamSightと呼ばれるモニター機能があり、システムが動作中に各オペレーターの稼働率やオペレーター間の通信
量をビジュアルにモニタリングすることができます。この機能を使うと、稼働率の高すぎるオペレーターを多重化したり、通信量の多い2つのオペレーターを同一筐体のサーバーに再配置したりすることが容易となり、チューニング作業が効率的に行えます。つまり、プログラム部品であるオペレーター単位でボトルネックを突き止め、解消することができるのです。
海外金融機関との共同実験にも成功

図2 銀行での典型的なアル
ゴリズム・トレーディング 論
理図 (89KB)
Streamsの適用例と性能については、TD証券(Toronto Dominion Securities)の例を挙げてご紹介します。同社はオプション売買に取り組んできましたが、北米の主要なオプション取引所からの時価データ配信量の急激な伸びに対し、自社開発の売買アプリケーションの性能が追いつけなくなることを危惧していました。そこで同社はIBMワトソン研究所とStreamsを使って売買アプリケーションの強化に取り組み始めたのです。
(図2)は、取引所やサードパーティー・データベンダーからのオプション・データフィードを消費する、自動化トレーディング環境を表現しています。TD証券とIBMの共同実験のゴールは低レイテンシー・ゾーン(青く強調された部分)を置き換える高パフォーマンスな代替案を作成し評価することであり、StreamsとBlue Gene®/Pスーパーコンピューターの組み合わせにて、この課題に挑戦しました。
実験では将来の時価データフィードの配信状況をシミュレートするため、記録済みのOPRA(Options Price Reporting Authority)フィード・データを15倍で再生し、必要な接続性をテストするため、低レイテンシー・ゾーンの外側の要素からさらに外側の他のコンポーネントへの接続を行うインターフェースも確保して、テストしました。実験では、流入する全時価データを自動化オプション取引エンジンが参照しながら、取引所への注文に必要な全情報を自動生成しました。
結果は、ピーク時には500万件/秒のオプション時価データを遅れずに処理でき、必要な注文データ生成までを1ミリ秒未満で処理できることが確認できています。
Streams 活用による次世代市場系システム展望
近年のコンピューターは速度向上よりも内蔵CPUコア個数を増やす方向にあるため、単一CPU向けに書かれた従来のアプリケーションを新しいサーバーに載せかえるだけでは複数CPUの性能を十分に引き出すことができません。設計変更をしなければ、増加したCPUは使われずに遊んだままだからです。そうであれば、従来アプリケーションの書き直しに労力を割くよりも、初めからマルチコア、マルチサーバーを意識して開発されたプラットフォームに移植する方が、将来性が高いケースも考えられるのではないでしょうか。
また、金融市場では、売買に利用可能な電子データが加速的に増大しています。Streamsの活用は、ニュースや画像データなど多様な情報も含んだ膨大なデータを瞬時に分析することを可能にします。この技術により、リスク発生の極小化や収益機会の創出と同時に、これまでとは異なる新しいビジネス・モデル創造の可能性が拡がります。
経済および市場の先行きが見えない中、投資に慎重にならざるを得ない一方で、企業は規制対応や将来に向けた競争力の確保が求められています。IBMは、次世代市場系システムの変革実現に取り組む金融機関の皆様を引き続きご支援してまいります。
掲載されている情報は2009年9月現在のものです。内容は事前の予告なしに変更する場合があります。
ソリューション情報は、すべての場合において同等の効果が得られることを意味するものではありません。効果はお客様の環境その他の要因によって異なります。
事例は特定のお客様の事例であり、すべてのお客様について同様の効果を実現することが可能なわけではありません。
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