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掲載日:2009年4月6日
この記事は、「行政&情報システム」(社団法人行政情報システム研究所 刊)2008年10月号に掲載された、弊社寄稿記事を許可を得て転載したものです。
はじめに クラウド・コンピューティングとは
昨今、国家やビジネスの産業構造を変革し、新たな競争を生み出すITの大きなパラダイムシフトとして、“クラウド・コンピューティング”というキーワードが世界中で注目されています。
コンピューター・システムの構成図などで、しばしばネットワークは「雲=クラウド」の形で表現されています。クラウド・コンピューティングは、こうしたコンピューター業界の慣例に端を発すると言われており、雲に例えられるネットワークの向こうにあるIT資源を、いつでも、どこでも、必要なときに、必要なだけ、サービスとして利用することができる次世代のコンピューティング・モデルです。
言い方を変えると、クラウド・コンピューティングの本質は、究極の仮想化により実現するサービス・インフラ技術です。電気や水道、ガスなどの社会インフラと同様に、ITサービスを利用できるようにすることを目指しています。
クラウド・コンピューティングの背景
「クラウド・コンピューティングで何が可能となるのか」という話に入る前に、ITを取り巻く世界で起こっている大きな変化に触れておく必要があります。それを一言で表すならば、「コンピューターで扱われるデータ量の爆発的な増大」です。例と して、次のような問題が顕在化してきています。
- 医療の世界では、CTスキャンやMRIなどの装置の精度向上とともに、増大を続ける医学画像データが世界中のデータ記憶装置(ストレージ)の30%を占有するようになると考えられる(注1)。
- 金融サービスの世界では、コンピューター・プログラムによる株式の自動的な売買が主流となっており、近い将来に株式取引の半数以上がこうしたアルゴリズム取引になると考えられる(注2)。
- RFIDや非接触ICカードなど固有のIDを埋め込んだタグやセンサーが普及し、流通やトレーサビリティー(履歴管理)など、さまざまな分野で応用が進む。これらから生成される大量のデータを、いかにリアルタイムに活用していくかが課題となっている。
もちろん、上記は氷山の一角にすぎません。2010年には、世界中のデジタル化された情報件数が11時間ごとに倍増するという予測もあるほどです(注3)。ビジネスや公共、研究開発、教育などの多様な分野で、より大量のデータを高速に処理できるコンピューティングの能力が求められています。これを裏付けるように、現在、多くの企業や団体がデータセンターに莫大な投資をしています。
しかしながら、こうしたコストや作業の負担は、どんな企業や団体にでも耐えられるような軽いものではありません。今後こうした状況が、大規模なシステムやデータセンターを「持つ者」と「持たざる者」の壁を生み、情報活用力の格差を広げる事態を招くならば、それはITの進化の姿として決して望ましいものではありません。ITの高度化によるメリットは、誰もが広く享受できるものでなくてならないのです。
もう一つ懸念されるのが環境への影響です。これまでITは、物流の効率化や資源消費の削減などの導入効果を通じて、環境保護に大きく貢献してきました。しかし、IT機器には大量の電力を消費するという側面もあり、システムが大規模化すればするほど、そうした環境面でのマイナス要因がクローズアップされていきます。実際、データセンターを新設するために、併せて発電所を建設しなければ電力を賄えないという事態も起こっています。また、IT機器の稼働に伴い排出される熱への対策も大きな問題となっています。
今後は企業や団体が個別にIT設備の増設に突き進むのではなく、より大局的な視点からグローバルな規模でデータセンターの集中化と統合を推進し、社会全体としての運用効率を高めていく取り組みが重要となってきます。
クラウド・コンピューティング実現へのステップ

新しい破壊的なパラダイムを
もたらすクラウド・
コンピューティングのイメージ図
(クリックすると拡大します)
上記のような課題を解決へと導くのがクラウド・コンピューティングです。クラウド・コンピューティングでは、サーバーやストレージといったIT資源をネットワーク上で共有化(プール化)し、仮想化します。ユーザーは、そのインフラがどんな機器で構成されているのかといった、物理的な構造を意識する必要はありません。必要とするソフトウェアの機能ならびに、実行にあたって最適なCPU処理能力やストレージ容量などを、インターネット技術を使い、いつでも、どこからでも、何からでも調達することができます。また、業務の拡大などによって、より大きな処理能力が必要になった際には、需要に合わせて動的に拡大することができます。事実上、その“枠”に制限はありません。しかも、こうしたITサービスを資産を持たずに従量制の課金体系下で利用できるため、導入する企業や団体には経理や財務上のメリットも生まれてくると
考えられます。
クラウド・コンピューティングは、突然降って湧いたものではありません。今日まで研究開発や実用化が進められてきた、以下のような技術やサービスの潮流の先にあるのです。(右図参照)
グリッド・コンピューティング
ネットワークを介して複数のコンピューターを結び仮想的に高性能なコンピューターを作る。複数台に大量の処理を振り分けて同時並列で実行させることで、一台ごとの性能は低くとも高速計算ができ、主に学術研究の分野で実用化ならびに利用が進んできた。クラウド・コンピューティングを実現するための重要な技術基盤の一つとして位置付けられる。
ユーティリティー・コンピューティング
コンピューターの持つさまざまな能力を、電気や水道などの公共サービス(ユーティリティー)のような形態で利用するモデル。CPUの処理能力やストレージなどIT資源を必要なときに、必要な分だけ、従量制の価格体系のもとで利用できる。サービスの利用側から見たクラウド・コンピューティングの姿が、ユーティリティー・コンピューティングであるという言い方もできる。
SaaS(Software as a Service:サービス型ソフトウェア)
さまざまなソフトウェアの機能をサービスとして、インターネットを通じて提供する。ユーザーはライセンスを買い取る必要はなく、その利用料金を期間に応じて支払う。さらに、このSaaSの概念をシステム基盤や開発環境にまで拡大し、オンデマンドで提供するPaaS(Platform as a Service:サービス型プラットフォーム)と呼ばれるサービスも登場している。クラウド・コンピューティングによって、さらなる発展が期待できるサービス分野の具体例がSaaSやPaaSである。
IT基盤の再構築における次のステップへ
また、クラウド・コンピューティングは、かつての大型コンピューターからPCへ、さらにWebコンピューティングへのパラダイムシフトが起こったのと同様に、IT基盤のあり方を抜本的に変革していく可能性を秘めています。
1980年代の中頃から急速に普及してきたPCは、大型コンピューターに比べて導入が圧倒的に容易であり、クライアント/サーバー型と呼ばれるコンピューティング・モデルのもと、企業や団体はエンドユーザーの手元にパソコンを配置し、業務のIT化による効率改善や生産性向上を実現してきました。もっとも、クライアント/サーバー型コンピューティングは、IT活用の裾野を広げた一方で、分散化したコンピューターの運用管理やメンテナンスのためのコストや手間を増大させていきました。
この状況を改善したのが、1990年代の後半以降に登場したWebコンピューティングです。Webコンピューティングは、ユーザー・インタフェースを除くほとんどの処理とデータをサーバー側に集中することにより、運用管理の簡素化とクライアントに対するサービスの均質化を実現しました。サーバーを中心とするこの運用スタイルは現在のシステムでも主流となっており、アプリケーションや部門ごとに乱立・分散したサーバーの統合や集約を推進していく原動力にもなっています。
こうして脈々と進められてきたIT基盤の再構築における次のステップとして、クラウド・コンピューティングは実現できると言っても過言ではありません。
出展
- 注1:IBM Global Technology Outlook, 2005
- 注2:Aite Group, Algorithmic Trading 2006:More Bells and Whistles, November 2006
- 注3:Nick Bontis and Jac Fitz-enz(2002).“Intellectual Capital ROI: a causal map of human capital antecedents and conse6 quents,”Journal of Intellectual Capital
