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クラウド・コンピューティングの実践と展望

クラウド・コンピューティングの実践と展望

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掲載日:2009年3月23日

この記事は、「行政&情報システム」(社団法人行政情報システム研究所 刊)2009年2月号に掲載された、弊社寄稿記事を許可を得て転載したものです。

はじめに クラウド・コンピューティングとは

クラウド・コンピューティングとは、ネットワークを「雲(クラウド)」に例え、そこに存在するコンピューティング・リソースを、必要なときに必要なだけ利用することのできる利用形態のことです。新たに発明された特定のテクノロジーを指す言葉ではありません。
その特徴は、まず、ITをモノとしてではなく、「サービス」としてとらえるという点にあります。ITの利用者にとって重要なのは、提供されるサービスの中身や簡便性であり、どのようなアーキテクチャーのサーバーがどこにあるのかといったことは、ほとんど意味を持ちません。サーバーやストレージなどのプラットフォームを資産として所有し運用することが目的ではなく、電気やガスと同じように利用でき、使った分だけ支払うような価格設定も特徴の一つです。加えて重要なのが、インフラの柔軟性と迅速なサービスです。提供する側は、利用者がリクエストするサービスを迅速に生成(プロビジョニング 注1)し、あらかじめ決められたサービス・レベル契約(SLA)のもと、リソースのスケール・アップやスケール・ダウンにも柔軟に対応し、なおかつそのための作業負荷や運用管理コストにほとんど影響しないことが鍵となります。
クラウド・コンピューティングによるサービスの提供形態は、「パブリック」と「プライベート」の二つがあります。平たく言えば、「パブリック・クラウド」はインターネットを通じて第三者のサービス・プロバイダーからクライアントにサービスを提供するもので、「プライベート・クラウド」は、例えば社内のIT部門が業務部門などの利用者に対してサービスを提供するものです。
すでに世の中では、パブリック・クラウドのサービスを提供するプロバイダーが登場し、認知度が高まっていますが、今後はプライベート・クラウドの動向にもぜひ注目していただきたいと思います。これまで企業や団体は、業務で必要とされるシステムをその都度開発し、社内あるいはアウトソーシングやホスティング先のサーバー上で運用してきました。これに対して、必要なITの機能 やリソースをサービスとして提供する社内のプロバイダー部門があれば、わざわざシステムを自分たちで調達し開発することなく、必要なサービスだけを適切なタイミングで活用することが可能となります。

組織内でのプライベート・クラウドの取り組み

それでは、クラウド・コンピューティングが実際にどのようなところで利用されているのかを見ていきましょう。まずは、IBM自身が社内でプライベート・クラウドを活用している事例をご紹介します。
一つ目は、全世界に8ヵ所あるIBM基礎研究所で利用している「IBM Research Compute Cloud(RC2)」です。このサービスを利用することで多くの研究者たちは、プロジェクトに必要なインフラやITリソースをオンデマンドで入手しています。
具体的な使い方は、まずイントラネット経由でRC2にアクセスし、必要な期間やパフォーマンス(CPUのコア数やメモリー容量など)、ディスク容量・ミドルウェアなどをメニューから選択します。オンライン・ショップで買い物かごに品物を入れていくイメージです。すべての入力を終え送信ボタンを押すと、その情報は上長に承認申請として送られます。そして、承認が得られてから数分程度でリクエストした環境が、世界中のどこかで自動的に構成され、使用できるようになります。

IBM Research Compute Cloud (RC2)画面イメージ

ここで強調しておきたいのは、こうしたサービスが、リクエストから承認、プロビジョニング、利用、リソースの返却までのライフサイクル全体を通して自動化され、人手をかけずに実行されていることです。サービス・マネージメントの自動化(注2)により、サーバーをはじめとするインフラのプロビジョニング時間は劇的に減少し、プロジェクトの監視や管理の負荷が軽減されています。
二つ目は、IBM社内の「テクノロジー・アダプション・プログラム(TAP)」と呼ぶ環境への適用事例です。TAPとは、IBMの8万人以上の社員が参加し、ソフトウェアやツールの開発などのイノベーション促進を目的に協業するコミュニティーで、ここで実施されたプロジェクトの約27%が実際の製品やソリューションとなり、お客様に提供されています。
TAPのプロジェクトで利用されるリソースをクラウド・コンピューティングで提供し運用することで、ファシリティーや人件費、ハードウェア・コストなどの年間運用費用を87%も削減することができました。
その結果、余裕のできた予算を新規開発のために振り分けることが可能となり、TAPコミュニティー全体としての生産性を高めています。
なお、こうしたプライベート・クラウドを実践するにあたっては、全く新しいシステムを構築する場合を除き、段階的な取り組みをお勧めしています。クラウドへの第一歩は既存のインフラの簡素化です。技術的にはサーバー統合やストレージ統合となります。次のステップで忘れてはならないのが、サービス・マネージメントの観点です。サーバーの仮想化は、利用率の向上など多くのメ リットを享受できますが、仮想化されたサーバーは目に見えません。バックアップや監視の考え方も従来とは異なります。サービス・マネージメントとは、仮想化されたリソースを効率良く管理し、その上でコストやパフォーマンス、利用者に対するSLA、コンプライアンス、セキュリティー、エネルギー効率化など複数の観点で最適化するソリューションを指します。
クラウド・コンピューティングによって、必要なリソースが即座に使えるようになることは利用者にとって非常に有益ですが、ともすればビジネスの目標に沿わない使われ方がされる恐れがあります。ビジネスの重要性や緊急度を、例えば費用対効果といった基準に基づいてマネージャーが判断し、目的を逸脱したリクエストや過剰なリソースの利用に歯止めをかける。そうした基本的な取り決めが非常に重要になってきます。さまざまなケースを想定した上で、最適なサービス・マネージメントを確立していく必要があるでしょう。
ただ、サービス・マネージメントの検討には、経験とノウハウ、客観的な“ものさし”が要求されるのも事実です。自分たちに最適なシステムを、試行錯誤で一つずつ確立していくのも一つの方法かもしれませんが、実績のあるベンダーやコンサルティグ会社に相談するのも、効率化の観点から検討に値するでしょう。

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