第1回 モビリティーを再考する―自動車関連企業にとっての新たな要件―
IBM Institute for Business Valueが2008年に発表した「2020年自動車産業の将来展望混沌の先に明晰さを求めて」では、自動車の製造、調達、販売、サービスのあり方など、自動車業界の将来について包括的に予測し、自動車関連企業の以下の5つの緊急課題を取り上げました。
5つの緊急課題
- モビリティーの進化
- 販売体制の変革
- 複雑さの解消
- 広範な提携
- グローバルな実行
そこでは、新たなモビリティー・モデルを取り入れた自動車メーカーは、革新的な所有/利用モデルを提供し、移動手段のオプションのコストを設定し、他の移動手段と統合することにより、新しい収益源を確保できることを強調しました。
その後わずか2年のうちに、経済的な要因とますます大きくなる社会的要因、環境的要因の影響を受け、モビリティーの進化が喫緊の課題となっています。
当連載では、「モビリティーの進化」に関して、日本も含めた世界の自動車関連業界の幹部へ改めてインタビューした結果についてご紹介します。
従来の交通手段のモデルが新しいモビリティー・エコシステムに取って代わられつつある理由
都市部が急速に広がるにつれて交通量が増加し、それに従って生産性が阻害され、インフラストラクチャーが圧迫され、世界中でさまざまな環境問題が起きています。消費者は自分の移動手段として個人所有のクルマを使用し続けると考えられますが、そのほかの交通手段を選択しようとする人も増えています。これは、自動車関連企業に対する脅威が高まることを意味していますが、一方で消費者と新しい関係を持つ機会にもなりえます。サービスを拡充し、価値を高めることで、自動車メーカーはクルマを作るという基本的な機能を犠牲にすることなく、消費者の移動手段の購入方法、使用方法、アクセス方法、および資金調達方法を簡素化できます。経済をけん引する役割を担う自動車メーカーは、新しいモビリティーのビジネスモデル創出においてもリーダーシップを発揮できると考えられます。
自動車産業は世界経済を刺激する
世界の自動車産業の総売上高はおよそ2.6兆ドルで、これは国内総生産(GDP)世界第5位の国を上回っており、これよりGDPが多いのは米国、中国、ドイツ、日本のみです。*1
クルマは、ある場所から別の場所への移動手段を提供するだけでなく、所有するクルマによってステータスの証しとなったり、好きな時、好きな場所へ自由に移動したいという多くの人々の願望を満たしてくれます。しかし一方では、都市部が広がるにつれて交通量が増え、それに伴って生産性、インフラストラクチャー、環境に影響が出ています。今日、世界中を走っている乗用車は6億台超とみられています。*2
ニューヨーク・タイムズの記事によると「およそ15年前の7倍に当たる、約400万台のクルマが北京の道路を渋滞させており、毎日1,500台の新たなクルマがその渋滞に輪をかけている」とのことです。*3こうした要因を考慮すると、従来の交通手段のモデルがまったく新しいモビリティー・エコシステムに取って代わられつつある理由がおのずと明白になるでしょう。
参考文献
*1 Why Is Auto Industry So Important? Articlesbase. May 28, 2009.
http://www.articlesbase.com/advertising-articles/why-is-auto-industry-so-important-941873.html(US)(IBM外のWebサイトへ)
*2 Worldometers. World Statistics updated in realtime.
http://www.worldometers.info/cars/(US)(IBM外のWebサイトへ)
*3 Wines, Michael. “Beijing’s Air Is Cleaner, but Far From Clean.” The New York Times. October 16, 2009.
http://www.nytimes.com/2009/10/17/world/asia/17beijing.html(US)(IBM外のWebサイトへ)
新たなモビリティー・モデルを取り巻く課題
IBM Advanced Mobility Studyから見えてきた課題の概要
新たなモビリティー・モデルを取り巻く課題と機会についての理解を深めるために、18カ国におよぶ先進国と新興国の業界幹部123名にインタビューを実施しました。この調査結果から、新たなモビリティー・ソリューションの開発により収益を上げ主導権を握りたいと考える競合他社が増えている中で、自動車メーカーは自らの地位を確保しなければならないことが明らかになりました。
こうした競合他社、ITプロバイダー、インフラ会社、エネルギー会社、とりわけ新興企業は従来の自動車業界の外側に存在しています。また、これらの企業は、新たなモビリティー製品/サービスの開発に必要なパートナーシップやアライアンス構築に、自動車関連企業よりも積極的あるいは一歩先んじています。これに対して、従来の自動車メーカーの3分の1近くは、新たなモビリティー製品/サービスを提供するにはまだ3~5年かかると回答されました。
このような環境ではアライアンスが極めて重要であり、ファイナンスが大きな役割を果たすといえます。自動車関連企業と自動車金融会社は、成功するビジネスモデルを開発するパートナーとして最適ですが、このビジネスモデルの成功は、いかにお客様と新しい関係を構築し、それを生かすことができるかどうかにかかっています。同時に、自動車関連企業は、テクノロジーを詰め込んだ、価格競争力のあるインテリジェント・カーの開発という本来の役割を見失ってはいけません。
調査方法
新たなモビリティー・モデルを取り巻く課題と機会を把握するために、18カ国におよぶ先進国と新興国の業界幹部123名にインタビューを実施しました。
インタビューは、2つの主要グループに分けて行い、1つは自動車メーカー、サプライヤー、およびその自動車販売金融会社(Captive Finance)から構成される従来の自動車業界、もう1つはテレマティックス・プロバイダー、エネルギー会社、インテグレーター、カー・シェアリング事業者、EVメーカー、モビリティー・コンサルタント、ベンチャー・キャピタルなどからなる「新しいモビリティー」業界で(図1参照)、このグループは、消費者のニーズを中心に置くという、モビリティーの新しいビジョンを定義しはじめています。
図1:18カ国のさまざまな業界セグメントの業界幹部123名にインタビューを実施
モビリティーを再考する―自動車関連企業にとっての新たな要件
世界中の都市部では、自動車による交通渋滞が深刻化してきています。インフラストラクチャーは限界まで拡張され、政府、企業、市民、環境に重大な要求を突きつけています。こうした状況は、移動手段がもたらす経済的、社会的影響とあいまって、利用者がより簡単、安全、効率的、かつ費用対効果の高い方法で、ある場所から別の場所へスムーズに移動できるようにする革新的なソリューションやサービスを開発することを自動車メーカーに強く求めるという結果をもたらしています。
「複雑さをいかに武器とするか IBM 2010 Global CEO Studyからの洞察」の中で、新しい経済環境はどこまで変化するか自動車業界幹部に質問したところ、77%が業界の構造は全く異なるものとなり、その変化は業界全体にわたって持続すると予想されていました。さらに、そのうちの61%は、その変化は極めて大きなものになるだろうと述べられています。
本調査では、そうした変化がどのようなものになるのかを明確化しようとしています。そのため、従来の自動車関連企業と「新しいモビリティー」のプロバイダーの幹部に、新たなモビリティー製品/サービスの開発への取り組みについてインタビューを実施しました。その結果、新しいモビリティー企業のほうが、市場にソリューションを持ち込むことに対してはるかに積極的であることが明らかになりました
「誰もが商品構成を変えていかなければなりません。これを無視する自動車メーカーは、長く市場に留まることができないでしょう。」
―欧州の自動車メーカー
「消費者がクルマを気に入ってくれなければ、モビリティーを提供するスタートラインに立つことすらできません。」
―米国のサプライヤー
自動車関連企業の3分の1近くは、新たなモビリティー製品/サービスを市場に投入するまでに3~5年かかると回答されています(図2参照)。この回答を選ばれた多くの企業は、新たなモビリティーに対する計画がまったくないことを意味しています。
図2:自動車メーカーの3分の1近くは、新たなモビリティー製品/サービスを提供するには3~5年かかるとしている
次回の第2回では、自動車関連企業がどうすればモビリティー・ソリューションを開発できるのかについてインタビューした結果をご紹介します。
第2回 自動車関連企業はクルマを作る―エントリー・ポイントと優位性―
「モビリティーの進化」 目次
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