第1回 顧客により近づくこと
IBMグローバル・ビジネス・サービスの「IBM Institute for Business Value」(Carolyn Heller Baird、Gautam Parasnis 共著※1)は、企業経営者の方々に、各業界の重要課題および業界を超えた課題に関して、事実に基づく戦略的な洞察をご提供しています。
今回は、「ソーシャル・メディアから、ソーシャルCRMへ―顧客は何を求めているのか―」をテーマに5回の連載でお届けいたします。
ソーシャル・メディアの現状
世界中でソーシャル・メディアの利用が急増している現在、顧客の活動場所は、ますます仮想化され、ソーシャル・メディアやソーシャル・ネットワーキングなど仮想的なサイト上にシフトしてきました。
ところで、顧客主導で定義された環境において、顧客と企業が相互に抱く期待は一致しているのでしょうか。
“顧客により近づくこと”
IBM Global CEO Study 2010※2によると、“顧客により近づくこと”がCEOにとっての最優先事項とされています。今日、企業がソーシャル・メディア・プログラムの構築に熱心なのは、この“顧客への接近”を実践するためなのです。一方、顧客はどうでしょうか。実際に、ほとんどの顧客はソーシャル・メディアによる企業との交流に、単なるつながり以上のものを求めています。顧客は、はるかに実利的なのです。ソーシャル・メディアの可能性を、十分に引き出すために、企業は顧客から時間、関心、他者への推奨、および個人データと引き換えに顧客へ具体的な価値をもたらす体験を提供する必要があります。
顧客が集まる場所、そして企業が身を置きたい場所がソーシャル・メディアであることは明らかなのです。ソーシャル・メディアは企業が顧客に近づくことができる大きな可能性を秘めており、収益向上、コスト削減、および効率化を促進します。ソーシャル・メディアに関する施策が各企業で短期間のうちに続々と誕生しているという調査結果が出るのも当然のことと言えるでしょう。
新たな戦略「ソーシャルCRM」
一方、顧客との交流のチャネルとしてソーシャル・メディアを使用することにより、従来型のCRMアプローチに注目すべき課題が生じています。プロセスとテクノロジーで実現されるCRM戦略は、顧客との関係期間の全体から最大の価値を引き出すことを目的として、顧客との関係を管理するよう設計されています。
通常このような戦略では、顧客管理に必要なオペレーション上の対応に重点が置かれますが、ソーシャル・メディアでは、顧客との関係はもはや企業の管理下にはないとされており、代わりに今では顧客(および大きな影響を及ぼす仮想ネットワーク)が対話を促進します。この対話は、かつてない即時性と到達率によって、企業のマーケティング、販売、およびサービスの活動の成否を握る鍵となります。
企業は、新たな戦略「ソーシャルCRM」とともに、このような変化を受け入れる必要があります。ソーシャルCRMは、企業の役割は顧客を管理することではなく、顧客が重視する協調的な体験と対話を促進することにあるという考えに基づくものです。
顧客が何を重視しているかを理解すること、特にソーシャル・プラットフォームという特殊な環境上で何を重視しているかを知ることは、ソーシャルCRM戦略の立案に向けた重要な一歩となります。顧客がソーシャル・メディアで企業やブランドを探すときのきっかけは何か、顧客が情報のやりとりに消極的な理由は何か、ソーシャル・メディアにおけるつながりは、企業が望むように、顧客の企業に対するロイヤルティーに影響を与えるのでしょうか。
顧客(消費者)は今、何を求めているか
その答えを見つけるために、IBM Institute for Business Valueは1,000人を超える世界の消費者を対象に、ソーシャル・メディアの利用者は誰か、消費者が頻繁に訪問するサイトはどこか、および消費者が企業とつながりを持つ要因は何かについて調査しました。さらに、350人の企業幹部に、顧客が自社と交流する理由は何であるかを調査しました※3。
消費者は自社のブランドとのつながりを求めていると想定していた企業にとって、調査結果は予想外のものでした。消費者は明確で具体的な価値を得ることに多くの関心を示しており、企業は、消費者がつながりを持つ動機をカスタマー・インティマシー※4に対する自身の願望と取り違えていたものと思われます。
今回の調査によると、消費者はソーシャル・メディアでの交流について揺るぎない意見を持っており、ソーシャル・メディアを受け入れたからといって、企業と積極的に関わることを望んでいるとは限らないのです。
世界中のあらゆる世代の消費者がソーシャル・メディアに群がっているが、その大部分はたまにしか交流しない
ソーシャル・メディアの驚異的な速度での普及にも関わらず、投稿への返答やコンテンツの作成を日常的に行うのはほんの一握りの消費者だけです。
目的は友人や家族であり、ブランドではない
消費者の半分以上は、ソーシャル・サイトを介して企業とつながっているという認識すら持っておらず、消費者にとって、ソーシャル・メディアとソーシャル・ネットワーキングは友人や家族との個人的なつながりを意味しています。
認識と現実-消費者が本当に求めているもの
ソーシャル・メディアを介した企業との交流に何を求めるかという消費者の声と、企業が考える消費者が関心を寄せている対象との間に大きなギャップがあることが判明しました。時間を費やし、口コミを広げ、個人情報を提供することと引き換えに消費者が望んでいるものは、具体的なメリットなのです。一方、企業は割引と購入は消費者が企業と交流する動機の中で最下位であると認識しているのです。
アドボカシー(支持)の逆説―ニワトリが先か卵が先か
ほとんどの企業は、ソーシャル・メディアがアドボカシー(支持)を高めると信じていますが、同意する消費者は38パーセントに過ぎず、60パーセントを超える消費者は企業やブランドへの愛着はソーシャル・メディアでの関与の必要条件であると考えています。企業は、信頼から成るソーシャル・コミュニティーの力を利用する創造的な方法を探し出す必要があるといえます。
企業にとって影響力のある施策
これらの事実から、企業はどのような影響を受けるのでしょうか。この変化に適合していく必要があるのは間違いないでしょう。ソーシャル・メディアの導入は、現在企業が直面する最も影響力のある施策の一つであり、顧客中心の組織にとってさえ、その影響は大きいものでしょう。予期されたとおり、企業はソーシャルCRMの基礎を築きつつある中で、変化や不確実性といった成長期の苦しみを経験していることを調査結果は示しています。戦いへの参入を急ぎつつ、先に述べた認識のギャップに陥らないように、企業は顧客価値に焦点を当て続ける必要があります。
大部分の消費者にとって、ソーシャル・サイトを通じて企業を見出す一番の理由は、具体的な価値を得ることにあるのです。
※1 著者について
Carolyn Heller Bairdは、IBMグローバル・ビジネス・サービス事業のIBM Institute for Business ValueのグローバルCRMリサーチ・リーダーです。20年近くにわたる豊富な経験を持ち、顧客体験やCRM戦略、デジタル・メディア開発、企業広報、マーケティング、およびブランド戦略に携わってきました。
Gautam Parasnisは、IBMグローバル・ビジネス・サービス事業のパートナーおよび統括責任者、グローバルCRMリーダーです。顧客体験とCRM戦略の開発、企業のCRM変革の推進、および実現技術の提供において20年を超える経験を持っています。
※2 IBM Global CEO Study 2010
CEOが抱えている戦略的課題や関心事を理解・分析することを目的とし、世界の主要企業のCEOや経営層、公共機関のリーダーを対象に、2年ごとにIBMのコンサルタントが直接インタビュー形式で調査を行うものです。CEOクラス対象の調査としては世界最大規模のものであり、2010年は、世界60カ国、1,500名以上(うち日本からは171名)のCEOを対象に実施しました。
※3 調査方法
今回、2010年10月、われわれは2回のオンライン調査を実施しました。最初の調査は、米国、カナダ、英国、フランス、ドイツ、インド、中国、オーストラリア、およびブラジルの消費者1,056人を対象に行われました。参加者の年齢分布はY世代、X世代、およびベビーブーム世代からなり、年間世帯所得は2万5,000米ドルから10万米ドル以上にわたっていました。2つ目の調査は同じ国々(カナダを除く)の351人の企業幹部に対して実施されました。流通、通信、金融サービス、工業、公共部門、ヘルスケアの各分野の企業が対象となっています。さらに、ソーシャル・メディア・プログラムを担当している企業幹部から定性的データを得るために、米国と英国で17件のインタビューを実施しました。また、Oxford Economicsと協力してソーシャルCRMのブログを開設し、ソーシャル・メディアやCRM専門家、そのほかの利害関係者から、ソーシャルCRMの話題に関する意見を集めました。
※4 カスタマー・インティマシー(customer intimacy)
顧客と親密な関係を築き、関係を強固にすることで顧客を囲い込み、長期の安定した良好な関係を築いて戦略的優位性を構築する考え方。
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