タブの始まり
- はじめに
- スマートな食品
- 日本の動向
- 日本IBMの専門家に聞く 選択中タブ,
2001年のBSE(牛海綿状脳症)問題をきっかけに、日本でも食品トレーサビリティへの注目が一気に高まりました。その後も、賞味期限の改ざん、産地・原材料の偽装など食の安全・安心を脅かす問題が次々に浮上しました。しかし法律で義務付けられた牛肉を除けば、食品トレーサビリティの導入がなかなか進んでいないのが実情です。
なぜ、食品トレーサビリティの導入が進まないのか?どうすれば食品トレーサビリティを実現することができるのか?海外の動向や事例にも詳しいIBMビジネスコンサルティングサービス執行役員パートナーでコンシューマー・プロダクツ・インダストリー担当の安瀬和博と、日本IBMグローバル・ビジネス・サービス事業バリューネット事業推進部長の久保田和孝に、食品トレーサビリティが抱える課題と、解決のための処方箋を聞きました。
トレーサビリティによる消費者との「情報の共有」に立ちはだかる障害
―2001年にBSE(牛海綿状脳症)問題が発生してから日本でも食品のトレーサビリティが注目され、RFIDを使ったトレーサビリティ・システムの実証実験も盛んに行われましたが、最近の動きはいかがですか?
安瀬: RFIDを活用する取り組みは、物流の効率化や工場の品質管理などで進んできていますが、トレーサビリティに関してはまだ立ち遅れていますね
海外では、養殖ものを中心に魚のトレーサビリティの仕組みが広がり始め、タイやベトナムでは養殖エビのトレーサビリティを国が支援して構築。日本などの輸出先に対して情報サービスを提供し始めています。
久保田: 米国では、2年ほど前にニセ薬問題への対応で、2009年初めまでにカリフォルニア州やフロリダ州などでトレーサビリティの義務付けが立法化されました。しかし、流通コストの増加などをどう負担するかで、法律の施行が遅れています。どの国でもトレーサビリティの必要性は認めつつも、いざ導入するとなると実現に時間がかかるのが実情です。トレーサビリティの本質は「情報の共有」にあります。消費者に誤解を与えない適切な情報開示のあり方や消費者教育など、企業内だけでなく消費者とも情報共有するという点で難しさがあります。個々の企業の取り組みに任せるのではなく、タイやベトナムのように政府主導の取り組みも必要かもしれませんね。
安瀬: ECR(Efficient Consumer Response)※1 ヨーロッパのレポートを見ても、なかなか具体的な事例が出てきません。欧州市場の特性を考えると、共働してサービスを提供したり、他社とネットワークを組むメリットはあるはずなのですが…。原因は国ごとに法律が違ったり、競合他社に情報を知られたくないなど色々ありますが、トレーサビリティの問題を個別企業で解決するのは難しく、いかに横断的に取り組める環境を整えるかにかかっていると言えます。
※1 ECR:消費者の視点から、メーカー、卸売業、小売業が連携して流通システム全体を効率化しようという取り組み。90年代初めに、米国の食品産業で始まった。
消費者庁の発足で食品トレーサビリティの義務化も視野に
―トレーサビリティを実現するには、どうすれば良いのでしょうか?
久保田: 日本でも商品によって、これまでは所轄官庁が異なり、持っている情報もバラバラでしたが、横断的にみる消費者庁が2009年9月に発足したのは象徴的な出来事です。最後は消費者の声がいかに強まるかでしょう。
安瀬: IBMがまとめたレポート「消費財業界の将来」では、情報に敏感な消費者を“Omni-Consumer※2”と呼び、そうした消費者が増えていくだろうと指摘しています。彼らのニーズに応えなければ、ビジネスが困難になっていくと予測しています。日本は比較的安全な食品が流通していた方なので、Omni-Consumerはまだ少ないかもしれませんが…。
※2 Omni:「すべて」、「総合」などを意味する接頭語。
久保田: 日本も、2008年2月の有害物質の食品への混入事件以降、消費者の意識は随分変わったと思いますよ。商品の産地を注意して見ることも多くなりましたし。
―消費者庁が発足する前の2009年4月に米・米穀のトレーサビリティ法が成立しました。全食品にトレーサビリティを義務付けることをマニフェストに掲げた民主党が政権を取りましたが、日本でも規制強化は進むでしょうか。
久保田: 消費者庁も発足したばかりで、民主党の取り組みも現時点ではわかりませんが、日本の消費者がどこまで食品に対するトレーサビリティを求めるかでしょう。世界各国でも食品に関する事件・事故が頻発して規制が強化されてきており、流れとして日本でも規制強化の方向ではあると思います。
