
ストリーム・コンピューティング技術で即時の対応を可能に
カナダのオンタリオ工科大学(UOIT)とIBMは共同で、ストリーム・コンピューティングの技術を利用した、新生児集中治療室(NICU)における予測分析システムを構築しました。重症の未熟児の生理学データをモニタリング・分析することで、生命を脅かす事象への適切な対応を実現。従来の医療現場よりも早期の処置が可能になり、患者の死亡・罹患リスクを低下させるとともに、医師が新たな臨床仮説を検証することにも役立つと期待されています。
NICUでの新生児の生理学データと罹患リスクの相関関係の分析・予測は以前から行われてきましたが、それをリアルタイムで行うというのが、このプロジェクトの最大のチャレンジと言えます。過去の知見をシステムに実装し、現在進行形の事象から重要な情報を検知。さらには、複数の患者のデータの相関関係から院内感染の危険を予測するなど、従来は困難とされてきたことをストリーム・コンピューティングが可能にしたのです。
ソフトウェア事業 インフォメーション・アジェンダ・タイガー事業部
ICP-コンサルティングITスペシャリスト 野嵜功
チャレンジ
早産など何らかの周産期異常のためにNICUに搬送された新生児は、保育器の中で文字どおり24時間体制で医療を受けることになります。生命力が十分でない未熟児のわずかな体調変化や異常の兆候を見逃すことなく観察し、迅速に適切な処置を行うことがNICUの医師・看護師の使命です。しかし現場は医師や看護師にとって、診察のほかさまざまな装置の刻々と変わる測定値を確認しつつ、即時の判断が求められる、肉体的にも精神的にも負担の大きな環境にあり、その業務をITで支援できないかが課題の一つとなっていました。
そこで、オンタリオ工科大学とIBMは協力して、最先端の分析予測技術を駆使することで新生児の潜在的な生命への脅威を漏らさず検知し、たとえ経験やスキルが十分でない医師・看護師であっても適切な処置を行える、あるいは事前に異常発生を予測可能な仕組みの構築を目指しました。
ソリューション
従来、目視や申し送り、紙ベースで伝えられてきた膨大かつ多様な情報を統合。病状の観察プロセスに、新生児の身体に装着されたセンサーから刻々と送られてくる多様かつ大量のバイタル・データ(体温、心拍数、血圧値・血液成分など16種類)をリアルタイムで収集・分析し、心肺停止や院内感染などの罹患リスクの存在を伝える予測分析の仕組みが加えられました。
具体的には、新生児の在胎週数・出生後日数と血圧、SpO2(動脈血酸素飽和度)の相関関係を示した平均データを基準モデルとして登録し、NICUの新生児のセンサーから送られてくる生理学データと比較し、基準との乖離度合いから罹患リスクを予測するという新生児モニタリングや予測分析を行うシステムが構築されました。
この予測分析を可能にしたのが、IBMのInfoSphere Streamsソフトウェア・プラットフォームです。同プラットフォームは、膨大なデータをディスクに格納する前にメモリー上で即時に処理を行うリアルタイム・データ分析プラットフォームで、IBMリサーチが2003年から研究開発を重ねてきたストリーム・コンピューティング技術が採用されています。
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導入効果
システムの導入によって、UOITではベテラン看護師による直接診断よりも6~24時間早く新生児の容態異常を検知できるようになりました。また、複数の患者を同時に観察することで、院内感染予測等にも寄与。これまで医師や看護師が持つ知見に負うところが大きかった新生児医療が、精緻なモニタリング・予測分析の下で行われるようになり、医師・看護師の経験の多少にかかわらず、罹患リスクの早期発見・治療が実現されました。
今回のプロジェクトについて、UOITのキャロリン・マクレガー博士は次のように語っています。
「こうしたデータをリアルタイムでとらえ、蓄え、活用することは、新生児のケアの品質を改善する非常に大きな機会となることでしょう」
今後はさらに、テクノロジーによって医師が新たな臨床仮説を検証することも可能となるなど、長期的なメリットがもたらされることも期待されています。
動画
当事例について、UOITのマクレガー博士が語ったインタビューは下記の動画でご覧いただけます。(英語)
マクレガー博士のほか、スウェーデン王立工科大学およびスウェーデン宇宙物理協会の教授が語った、InfoSphere Streamsを使ったリアルタイム・データ処理に関するコメントは、下記の動画でご覧いただけます。(英語)
