活断層研究センターの活動

独立行政法人産業技術総合研究所
1995年1月17日の兵庫県南部地震による阪神淡路大震災以降、「活断層」という言葉をしばしば耳にするようになりました。「活断層」とは、約180万年前以降に活動を繰り返し、今後も活動する可能性が高い断層のことです。(断層は、プレートの運動などによって地殻に強い力が働いたときに、地殻の弱い部分に生じた「ずれ」のことをいいます)日本列島とその周辺海域には多くの活断層が分布します。
独立行政法人産業技術総合研究所(以下、産総研)の活断層研究センターでは、全国の主な活断層を調査し、地震が発生する可能性と地震の規模を予測しています。地震については、地質学、地形学、地球化学、地球物理学、地震工学といった学問領域で研究がなされていますが、同センターはこれらのうち、地球化学以外の分野を幅広くカバーしています。また、大地震の際の地震動の予測は、建築物の耐震構造や防災対策などに直接役立つ研究として重要であるため、同センターでは原子力発電所や石油備蓄基地の用地選定などへの応用も視野に入れた研究を行っています。
地震のメカニズム解明と予測という大きな目標を共有する活断層研究センターでは、次の4つのチームが研究にあたっています。
- 活断層研究チーム
全国に分布する活断層でトレンチ調査、ボーリング調査、反射法探査など現地調査を行い、研究する - 海溝型地震履歴調査チーム
海岸地形や地層に残された過去の地震による地殻変動や津波堆積物の記録を調査・研究し、地震の性格や履歴を明らかにする - 地震テクトニクス研究チーム
断層間の相互作用や広域地殻変動を考慮して地震予測手法を開発する - 地震災害予測チーム
地震による揺れと断層運動に伴う表層地盤のずれを予測する

地震テクトニス研究チーム
加瀬 祐子博士
さまざまなデータを収集し、コンピューターを用いた幾多のシミュレーションを重ねることにより、「どういうメカニズムで何が起きたか」をモデル化し、将来の予測を導き出すことが可能になります。地震テクトニクス研究チームに所属し、連動型地震のシミュレーションにIBM System p5モデル520を活用されている、加瀬祐子氏(理学博士)にお話を伺いました。
連動型地震のメカニズムをコンピューター・シミュレーションで探る
加瀬氏は、活断層で発生する地震のなかでも複数の隣接した断層が組み合わさって連続的に破壊が生じていく連動型地震をテーマに、その仕組みを解明する研究活動を行っています。
「そうした連動型地震では、ひとつひとつの断層(セグメント)が単独で破壊する場合に比べて、断層のずれ(すべり量)や地震動、津波の規模が大きくなる可能性があります。私の研究は、活断層が連動したりしなかったりということがどのようにして決まるのか。また、連動するときとしないときで地震による揺れや津波がどのように異なるのか。こうしたことを理解し、将来の地震予測に役立てることです。実際に大地震を起こして実験を行うことはできませんので、連動型地震の破壊過程を定量的に評価するためには数値シミュレーションが必要になります。現時点では、過去に起きた地震をコンピューター上に再現して、連動型地震発生のメカニズムの理論的解明に取り組むとともに、統計的な連動性の予測のために、比較的単純なモデルを用いた動的破壊シミュレーションを行っています」(加瀬氏)
連動型地震のメカニズムの解明に必要な情報は、次の3種類です。
- 断層の形と並び方(断層の三次元形状)
- それらの断層にどのような力がかかるか(応力場、深さ依存性)
- 断層のずれ(すべり量)と解放された力の関係(摩擦構成則)
断層の三次元形状については、地下の構造を調査し、地震波の伝わる速度から割り出して把握します。断層にかかる応力については直接測定することが難しいものの、近い過去の地震データから、その地震ではどのような力が解放されたかといったことを導きます。断層のずれと力の関係については、小さなサンプルモデルを用いた高圧実験の結果や、国内や海外のボーリング調査のデータをもとに必要な情報を得ています。
連動型地震のシミュレーション手法としては、図1に示すような断層形状や地震波が伝播する地下構造に関する物理モデルを作成し、破壊の広がり方を計算するというものです。地球から切り出された広大な直方体の地盤に、連続もしくは不連続のさまざまな断層モデルを想定し、三次元差分法によるモデル化を行います。こうした計算は膨大な計算量を必要とします。
「私たちの取り組んでいる地球物理学では、数値計算が不可欠です。というのは、地震の再来間隔は、数十年から数千年であり、実データの収集は不可能です。厳密な意味での再現性はなく、同じ規模での実験は不可能です。また、地球の観測・観察に基づくため、場の不均質が強く、正確な測定は困難をきわめます」と加瀬氏。コンピューター・シミュレーションで求められるのは、図2に示すように「地震のとき、各点(地点)がどのように動くか」というものです。最終的には地表の各点での最大値をとって地面のゆれ方の地図を描き、「どんな地震が起こりうるか」を予測します。

シミュレーションで活躍する IBM System p5
加瀬氏は、シミュレーションのための計算を単体CPU性能の高いPOWER5+™ を2個搭載したIBM System p5 520で行っています。震源部分の計算に3〜4GB、地震動の計算に5〜6GBのメモリーを割り当てています。CPUの能力について、加瀬氏は次のように語ります。
「断層面の境界条件の変更などを柔軟に行うためにプログラムは自分で開発しました。Fortranを使ってプログラミングし、デバッグも自ら行っています。計算しては修正するという作業の繰り返しなので、1CPUあたりの速さを重視しています。その点で、最新のIBM System p5 520は高速で、私にとって非常に使い勝手の良いマシンです。連動型地震のシミュレーションの場合、断層だけを取り出して計算するので、その部分の計算がボトルネックになります。そのため、並列化する場合は断層部分をうまく分けないと、予想するほど迅速には計算できないのではないかと考えています。並列化は今後の課題です。いずれにしても、高速ワークステーションはIBM System p5 520のようにメモリー・サイズとCPU能力がバランスよく進歩してくれることが理想です」
加瀬氏は、断層面のモデルをできるだけ実際の状態に近づけるために、マッピングなどを使ってプログラムを改良する方向で検討を進めています。「こうした研究においては、断層の物理モデルやパラメーターを替えてパラメトリックに多数のシミュレーションを行い、統計的な解析を行って観測データとつき合わせていく必要があります。単体CPUに十分速い計算能力が要求されます。その点、IBM System p5 520は、満足のいくスピードが得られています」

連動型地震への確立的な指標を示すことが今後のチャレンジ
今後の研究の展望について、加瀬氏はこう語ります。「将来的には、より複雑な形状を考慮して、より多くシミュレーションすることにより、例えば『断層と断層の間が2キロ離れていたら、60%から70%の確率で連動します』というような指標を統計的に示したいと考えています。断層の距離と形状、それぞれの断層の過去の活動歴などの条件を取り入れて、確率的なことを提示できるようにするというのがここ数年の目標です。今後は、考えうる限りの断層の三次元形状や応力場、断層のずれと解放された力の関係といった情報を組み合わせてシミュレーションを繰り返すことによって、統計的かつ定量的に連動型地震の予測を行っていく必要があると考えています」
最後に、連動型地震のシミュレーション研究について加瀬氏は、「シミュレーションによって地震のメカニズムを探ることに大いに興味を持っています。地球の歴史、時間の流れ方を速めることはできませんし、実際の地震発生を待っているわけにもいきません。だからこそ、コンピューター・シミュレーションを駆使して真実を探りたいと考えているのです」と、思いを語ってくれました。IBM System p5が、こうした大きな視野を持つ研究者を支え続けています。
お客様情報
独立行政法人産業技術総合研究所 活断層研究センター
[所在地]
茨城県つくば市東1-1-1 中央第7
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