
株式会社損害保険ジャパン(以下、損保ジャパン)は、保険契約などの日常業務で保険代理店が利用する代理店向けポータルシステム(以下、Webポータル)を構築し、運用を開始しました。
システム開発を担当した株式会社日立情報システムズ(以下 日立情報システムズ)では、日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)が販売するIBM WebSphere® Portalを採用し、シングル・サインオンでWebポータルから業務系、情報系のアプリケーションを利用する環境を構築。損保ジャパンと代理店とのコミュニケーションの円滑化が促進されたことで、お客さまへの情報・サービス提供の品質向上に大きく貢献しています。
「お客さま第一」の理念で代理店を含めた業務改革に取り組む、株式会社損保ジャパンIT企画部課長の原 啓介氏、同課長代理の伊藤 正剛氏、さらにシステム開発を担当した株式会社日立情報システムズ(以下、日立情報システムズ) 金融情報サービス事業部 金融サービス本部 アウトソーシング設計部 第2グループ主任技師の藤井 均氏、同技師の萩沢 清二氏に話を聞きました。
インタビュイーのご紹介
株式会社損害保険ジャパン
IT企画部
課長
原 啓介 氏
IT企画部
課長代理
伊藤 正剛 氏
株式会社日立情報システムズ
金融サービス本部 アウトソーシング設計部 第2グループ
主任技師
藤井 均 氏
金融サービス本部 アウトソーシング設計部 第2グループ
技師
萩沢 清二 氏
―最初にWebポータルを導入した経緯をお聞かせください。

原:当社は安田火災海上保険株式会社(現・損保ジャパン)時代の1980年に業界初の代理店システムを開発し、その後1991年にオンライン化、1990年代後半にWebシステムへと進化させてきました。現在、3万5000店以上の代理店が代理店システムを導入しており、今や代理店業務になくてはならないものとなっています。
代理店の仕事は「保険を販売すること」が中心で変わらないのですが、昔に比べて代理店の仕事量が圧倒的に増えているという背景があります。一口に代理店システムと言いましても、保険料の試算から計上までのいわば本来業務を支援するシステムのほかに、最新の商品知識を習得するためのeラーニング、情報掲示板など多岐に渡っています。しかも利用するには、システムごとに認証手続きが必要で、全体でシングル・サインオン(SSO)とはなっていませんでした。
ユーザーIDを管理するだけでも大変という声が上がっていたこともあり、業務効率化の観点からも、必然的に横串機能であるWebポータルのようなものが必要ではないかと考え始めていたのです。ちょうどその頃、日立情報システムズからビジネス・ポータルの企画提案があり、2008年春から開発に着手して2009年5月に運用を開始したところです。
伊藤:今回、利用者である代理店目線でのシステムの利便性を徹底的に追求しました。
当社では2008年度から全てのサービスプロセスを“お客さま基点”で見つめ直すリテールビジネスモデル革新プロジェクト「PT-R」に取り組んでいるのですが、お客さまに情報・サービスを提供する代理店が重要な役割を担うことはいうまでもありません。
保険商品の複雑化、多様化とともに、代理店の業務も高度化している中、従来の代理店システムは損保会社の業務フローに合わせて構築されてきた経緯もあり、必ずしも代理店の目線での機能が十分とはいえませんでした。むしろインターネットのポータルサイトのほうが、マイメニュー機能が用意されていたりして、利用者に使いやすいサービスが提供されていると言えます。そこで代理店システムにも、Webポータルの導入で代理店の目線で利用しやすいものへと進化させることにしたのです。
―日立情報システムズが、Webポータルを提案したのはなぜですか?

萩沢: 当社では、損保ジャパンの代理店システムの中核となる業務系の保険契約システム「SOMPOJ-NET」の構築をお手伝いし、サーバーの運用も行ってきました。近年、企業が業務改善に取り組むうえで、業務系システムと情報系システムをいかに連携させるかは、どの企業にとっても共通の課題となっています。
当社では、それまでWebポータルを構築した実績はありませんでしたが、業務系と情報系をシームレスに繋ぐ仕組みとしてWebポータルが有効であると考え、代理店システムの見直しに合わせて企画提案させていただきました。
―今回導入したWebポータルにはIBMのWebSphere Portalを採用したと聞きましたがその理由は?

藤井:企業向けのポータルではWebSphere Portalが事実上の業界標準であること、そして機能の柔軟性、拡張性に優れていることを評価しました。技術的には、システムやアプリケーションへのシングル・サインオン環境を構築するIBMのソフトウェア製品 IBM Tivoli® Access Manager for ebusiness(以下、TAM)とWebSphere Portalの高い親和性も採用理由のひとつでした。TAMに関しては、2002年からサービス提供開始している日立 保険会社共同ゲートウェイを構築する際の活用実績もあります。
原:代理店も、損保ジャパンとだけ取引のある専属代理店と、複数の会社と取引のある乗合代理店に大きく分かれます。乗合代理店にしてみれば取引先ごとにWebポータルの操作性が違うのでは使いづらいでしょう。
損保ジャパンとしてはWebポータルという仕組みそのもので競争するつもりはありません。代理店の目線に立てば、他社と共通化したほうが一貫した操作性が提供できると思っているぐらいで、多くの企業で利用しているWebSphere Portalを採用するという提案、そして日立情報システムズが提供するASPサービスという提供形態を採用しました。
代理店に提供するコンテンツにこそ、損保ジャパンとしての価値を作り込むべきだと考えていますので、ピーク変動を考慮したインフラの設計・運用を専門家に任せることで、よりコンテンツ制作に注力できるようになりました。
―開発はどのように進めたのですか?

伊藤:代理店目線でのシステムの利便性で重要な要素は、ユーザー画面の使いやすさであり、トップページにどのような情報を掲載するかは特に注意を払いました。
損保ジャパンとして要件を提示するのですが、それをどのように配置すれば効果的か、文字などの大きさをどうするか、などをデザインの専門家から提案を受け、検討を重ねました。緻密なPDCAサイクルをまわした結果、数多くのユーザビリティーに関するノウハウが溜まりました。その結果をシステムにひとつひとつ実装できたのは、WebSphere Portalならではの柔軟性あってこそかもしれません。
萩沢:さまざまな粒度の要件が出てきますと、やはり製品が提供する機能と追加開発しなければならない要件をタイムリーに切り分けることが重要になります。
今回損保ジャパンとのミーティングに日本IBMの担当者も参加することで、必要となる周辺開発の検討もスムーズに進めることができました。今回ほどB2B(企業間)ポータルとしてWebSphere Portalの機能を徹底的に分析、活用できた事例はないのではないでしょうか。
原:専属プロ代理店から整備工場に代表される副業代理店と、幅広いユーザーそしてさまざまな利用場面が想定される代理店システムは、利便性と機能性をどうバランスをとって設計するところに難しさがあります。
例えば、アクセスしたい業務や情報まで何回クリックして良しとするのか。トップページに載せる情報の種類と量がどの程度が最適なのか。このようなことを相当吟味し、一般のWebサイトよりやや多いぐらいのコンテンツを許容度と想定することにしました。
―日立情報システムズでは、いかがでしたか?
萩沢: Webポータルは、ID数で20万ユーザーのSOMPOJ-NETなどの代理店システムの文字通り業務ポータルになるわけですから、24時間365日サービスを止めるわけにはいきません。ノンストップを実現するためのハード、ソフトなどの構成をどうするか、十分に検討しました。運用面では、代理店の登録内容変更が多く発生時期でも、アクセスが集中する午前中の業務に影響がないよう工夫しています。また、アプリケーションの保守面でも、クラスター構成が組まれているサーバーに対し順に実施し、反映させることで、サービスを停止することがないよう細心の注意を払っています。
―このような規模の開発プロジェクト、苦労された点があったのでは?

図1 各種システム・アプリへの
入り口を一元化する代理店向け
ポータル・システム
(2009年5月稼働時)
萩沢: Webポータルを導入することで、代理店は各種システム、アプリケーションの窓口が一本化されるわけですが、代わりに個々の窓口対応を担うことになるシステム側の「接続」は、窓口が多い分立ち上げに苦労しました。
Webポータルでは、最大40のシステムやアプリケーションに接続できるメニュー機能を設けているのですが、窓口毎にインターフェース要件を詰め、接続テストを行い、問題が発生した場合には個別に確認、調整していくことになるためです。
―代理店の評価はいかがでしたか?
伊藤: 代理店の声を反映しながらシステム設計をするわけですが、実際に使い始めることにより、見えてくる課題というのがあるはずです。そこで、運用を開始する半年前の2008年12月から、専属代理店と乗合代理店、そして業態毎にモニター代理店を選定し、パイロット運用を開始しました。社内利用に150 ID、代理店には50 IDを提供して、Webポータルの使い勝手などの意見を聞いて、ブラッシュアップを図りました。
原: 実際、代理店からはいろいろな反応がありました。SOMPOJ-NETを利用しようとしても、必ずWebポータル経由で立ち上げなければならなくなるので「面倒だ」という厳しい意見もありました。しかし、業務系メニュー(契約照会・保険料試算など)と情報系メニュー(業務ニュース・取扱規定など)を統合することで、ひとつの画面から多くの業務を行えるようになったわけですから、実際に使い込んでいただくことで、その良さを理解いただけると考えています。また、損保ジャパンが発信する重要な情報、お知らせを確実に届け、見ていただくという狙いもありました。代理店の属性に応じたコンテンツ提供、分かり易い場所への表示をはじめとする多くの工夫の成果もあり、「情報が伝わりやすくなった」との前向きな評価もいただいています。
―実際に導入した効果はいかがですか?
伊藤: 損保ジャパンが発信する「お知らせ」に対する問い合わせが目に見えて増えましたのは驚きましたね。
代理店からの問い合わせ窓口であるヘルプデスクには、システムの操作などに関する質問が毎月数万件寄せられますが、Webポータルを導入する直前の3月、4月は「お知らせ」の内容に対する問い合わせは、わずか月3~5件でした。ところが5月に入ると79件、6月は83件と大きく増えているのです。
代理店がWebポータルを通じて、「お知らせ」などの情報をしっかりと見るようになったのだろうと思います。パイロット運用を開始した5月以降は、その効果を実感しています。
伊藤: 代理店に見てもらいたいと思って発信していた情報が、実は届いていなかったという実態が今回判明し、正直残念に思いました。しかし、今回の代理店ポータル導入をきっかけに、確実に情報が届くパスができたことは、非常によかったと思います。
―今後の取り組みはいかがですか?

図2 2009年10月「PT-R」スタート
時のSOMPOJ-NETポータル
の構成
原: Webポータルの導入は、2009年10月にスタートする「PT-R」に向けた代理店システムの大幅な機能拡充のタイミングから逆算して実施しました。
年度末、年度初めを避け、ヘルプデスクへの入電が比較的落ち着いている時期を選んで導入することで、10月の本番前にWebポータルに慣れてもらい、新しいシステムの導入効果を最大限に引き出すのが狙いです。10月からは機能拡充に伴い、トップページ画面の構成も変わります。
SOMPOJメール、ToDoリストなどのシステムが稼働し、保険契約が成立するまでの進捗管理もスタートします。代理店システムを介し、損保ジャパンと代理店の間の情報共有・連携・進捗管理を進めていくうえでの新たな一歩を踏み出したことになります。
伊藤: Webポータルの導入に加え、「PT-R」がスタートすることで、同じ情報だけでなく画面も共有できるようになり、当社の営業担当者と代理店とのコミュニケーションの円滑化、緊密化を大きく前進させることができると考えます。
今後の課題としては、代理店内のコミュニケーションツールとしてWebポータルの活用も検討したいと考えています。そして、代理店内のコミュニケーション機能の実装により、このWebポータルを代理店の全ての業務の入り口として使用されることを期待しています。
―本日はありがとうございました。
企業概要
IBM、IBMロゴ、WebSphere、Tivoliおよびibm.comは、世界の多くの国で登録されたInternational Business Machines Corp.の商標です。他の製品名およびサービス名等は、それぞれIBMまたは各社の商標である場合があります。現時点での IBM の商標リストについては、http://www.ibm.com/legal/copytrade.shtml(US)をご覧ください。
