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科学者が語る科学の楽しみ

家 泰弘氏



プロフィール   若者へのメッセージ
科学のおもしろさについて   研究テーマ



プロフィール

家泰弘氏の顔写真 家 泰弘
日本IBM科学賞 第7回(1993年)物理分野受賞者
東京大学物性研究所 教授

第7回日本IBM科学賞受賞の詳細はこちら

研究室のホームページ
iye@issp.u-tokyo.ac.jp

若者へのメッセージ

皆さんの中にもプロの研究者を志して物理を専攻する人が少なくないと思いますが、物理というのはどちらかというと敷居の高い学問です。一通りの基礎科目を勉強するだけでも時間がかかるので、いったいいつになったら研究の第一線に出られるのかという思いを抱くかもしれません。
自分が学部の学生だったとき、物理の教授というのはきっと物理がよく解っているのだろうと思っていたものです。いま自分が一応その立場にあるわけですが「物理がわかった」などと言える日が来るとはとても思えません。
しかし曲がりなりにもプロの研究者として20年近く過ごしてきて一つだけ皆さんに断言できることは、本で読むより現場で体験するほうが物理のおもしろさをはるかに良く味わえるということです。 見知らぬ土地をテレビで見るのと自分の足で歩くのとの違いと言えるでしょう。もちろん将来物理とは離れた職業に就く人にとっても、物理的な考え方のトレーニングはきっと役に立つことと思います。
サッカーではボールを扱う技術とともに、ルックアップといってゲームの局面を見ることの重要性が強調されます。これと同じことが研究者を志す若い人へのアドバイスとしても通用するのではないかと思います。自分の研究テーマについて懸命な努力をするとともに、知的興味を広く持って視野を広げ教養を深めるためのルックアップも忘れないようにしていただきたいと欲張りな注文をしておきます。


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科学のおもしろさについて

私は1981年から1985年にかけてアメリカのMIT、ベル研究所、IBMワトソン研究所で研究する機会を得ました。当時、分数量子ホール効果や微小金属リングでのアハラノフ・ボーム効果など、目を見張るような展開を間近で体験することができました。日本に戻って物性研究所での研究を始めた直後に、今度は高温超伝導の出現という大事件が起こりました。
振り返ってみると、このような知的興奮に満ちた分野を選んだことは大変に幸せなことだったと思います。それらの発展に幾分でも貢献できたという思いと、もう少しやれなかったかという心残りが入り交じります。


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研究テーマ

実験装置の写真1
実験装置の写真2
私が行っている研究テーマを一語で表わそうとすると「量子伝導現象」という言葉を選ぶことになるでしょう。
電気抵抗というのは物質によって無限大(絶縁体)からゼロ(超伝導体)まで劇的に変化する量です。さらに1つの試料でもそれが置かれる物理的環境(温度、磁場、圧力など)によってその電気抵抗が敏感に変化する例がいくつも知られています。
特に低温における伝導現象は、超伝導・金属絶縁体転移・量子ホール効果・トンネル効果など、量子力学を顕著な形で実感させてくれるものが豊富にあります。
この分野の研究の特徴は、物理的アイデアに基づいて研究対象を設計し、それらを高度な薄膜結晶作製技術や微細加工技術を駆使して人工的に作ってしまうところにあります。 異種の半導体結晶を交互に成長させることにより人工的に作られる超格子はその典型です。
またこの分野では、量子井戸・量子細線・量子ドットなど電子の運動の自由度を2次元・1次元・0次元に制限した系を人工的に作ることができます。 これらはマクロスコピック(巨視的)とミクロスコピック(微視的)の中間という意味でメゾスコピック系と呼ばれます。
過去15年ほどの間に量子伝導の分野では,知的興奮をもたらす数多くの発見がありました。
例えば電子局在の問題には電子の波としての性質(量子干渉効果)が重要な役割を果たしていることが解明され、 その発展として微小な金属リング試料におけるアハラノフ・ボーム効果による磁気抵抗の振動が観測されました。 電子の電荷eとプランク定数hという物理定数の組み合わせから抵抗の次元を持つ量をつくるとh/e2=25,813オームという値になりますが、これがマジックナンバーです。
量子ホール効果をはじめとする一連の量子輸送現象にはこの普遍的な抵抗値がいろいろな場面で登場します。電気伝導のような複雑な現象のなかに、物質によらない普遍的な性質が見いだされたことは本当に驚きでした。
子伝導現象の研究は応用とも密接な関係を持っています。そもそも現代文明を支えるエレクトロニクスは半導体や金属の中の電子のふるまいの物理にその基礎を置いています。一方、電子機器の高性能化を目指して開発された薄膜結晶作製技術や微細加工技術によって人工物質系やメゾスコピック系の実験が現実のものとなったわけで、 基礎と応用とが相互に刺激することによる発展の好例となっています。
私自身の研究はデバイス応用に結びつくようなものではありませんが、 この分野の発展によって将来新しい量子効果を用いた電子機器が生まれるかもしれません。


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