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科学者が語る科学の楽しみ

木村 薫氏



プロフィール   若者へのメッセージ
科学のおもしろさについて   研究テーマ



プロフィール

木村薫氏の顔写真 木村 薫
日本IBM科学賞 第8回(1994年)物理分野受賞者
東京大学大学院工学系研究科材料学専攻 助教授

第8回日本IBM科学賞受賞の詳細はこちら

研究室のホームページ
bkimura@phys.mm.t.u-tokyo.ac.jp

若者へのメッセージ

サイエンス・フィクションやマンガの登場人物である「○○博士」を見て、私は、子供の頃から漠然と科学者に憧れていました。未知の現象を解明したり、不可能だった技術を可能にする等、科学の面白さは、本来、非常に分かり易いはずです。ただ、現代において、科学離れが進んでいるのは、「自ら科学を作り上げる立場になる前に、人類がその歴史を掛けて築き上げてきた、過去の膨大な科学の蓄積を習得しなければならない」と考え、道のりの遠さに嫌気がさしているのではないでしょうか。過去の蓄積の習得が、膨大な知識の単なる暗記だとしたら、それは非常に退屈な作業となるでしょう。しかし、自らの発見や発明の喜びは、小学校での学習の中でさえ、感じることができるものです。たとえ過去に解明されていた事実であっても、自ら改めて発見することには、喜びがあるのです。この、自分にとっての新鮮さを大切にすることで、科学を学ぶことは、私にとって大変楽しいことでした。皆さんも、普段の勉学の中に、「発見」の喜びを、是非見つけて下さい。


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科学のおもしろさについて

私にとっての科学の面白さは、「若者へのメッセージ」でも述べましたように、非常に単純です。誰も知らなかったことを知ることができたり、誰も出来なかったことが出来るようになったりすることです。そして、それを「自己表現」として、表現することです。私は、「研究テーマ」でも述べた、準結晶合金の電気抵抗率が、金属としては異常に高いことに気が付き、国際会議等で発表しました。ところが、初めは、その理由までは分からなかったこともあって、信用してもらえず、さんざん批判されました。その当時は、自分が間違っているかもしれないと思う時もありました。
その後、私の結果を批判したグループや逆の結果を発表していたグループが、次々と、 高抵抗率を証明する発表をしました。この事件は、私にとって、大変な喜びであり、他の人と異なる独自の結果や考えを持つことに対する、大きな自信となりました。科学は、基本的には客観的な大系ですが、その中に、芸術の分野と同様に、独自の世界を築くことが可能だと思います。 物質科学における個々の研究を積み重ねて行くことによって、物質に対する独自の認識の世界を作り上げることが、私の夢です。


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研究テーマ

  1. 研究テーマと興味深い点
    現在の私の研究テーマを一言で言うと、「正20面体クラスター固体の統一的描像の構築と、“クラスター固体”という概念の構築」ということになります。もちろん日常的には、幾つもの具体的な研究テーマを設定して研究を行っておりますが、大学での研究の目標は学問の構築であり、個々のノウハウの蓄積だけではなく、「描像」や「概念」を作り上げて行くことだと考えています。
    正20面体というのは、正三角形の面が20枚から成る多面体です。この多面体の各頂点に原子が配置したものが、正20面体クラスターです。周期律表で共にIII 族の元素である、ボロン(B)とアルミニウム(AI)は、このクラスターを作り、これを構造単位とする物質(固体)群が存在します。ところが、ボロンを主成分とする固体群は半導体であり、アルミニウムを主成分とする固体群は金属です。これは、周期律表で同じ族に属する元素は、結合の性質が似ており、同じ構造で、似た性質を持つ固体を作る傾向があることに反する、不思議な事実です。我々の研究から、III族元素の正20面体クラスターの結合は、 中心原子が無いときは共有結合(半導体の結合)になり、中心原子が存在すると金属結合になることが分かりました。
    つまり、この物質群においては、クラスター構造のわずかな違いによって、その性質が、半導体から金属まで、大きく変わり得るということです。
    正20面体クラスターには、もう一つ大きな特徴があります。それは、正20面体対称性は、周期性と共存できないということです。多くの固体の構造は、原子が周期的に並んだ結晶で、結晶に許される限られた対称性の中に、正20面体対称性は含まれていません。したがって、正20面体クラスターは結晶構造に馴染まず、その周期は長くなる傾向があり、周期が無限大になった準結晶も存在します。準結晶は、結晶に許されない対称性と、準周期性という高度な秩序を持つ、固体の構造です。アルミニウムを主成分とする準結晶は、基本的には金属ですが、電気抵抗率が異常に高く、非金属的な性質を多く持っています。この物質の特異性の起源は、正20面体クラスターと準周期性にあります。
    以上のようなユニークな多様性を持つ、正20面体クラスター固体という物質群を、統一的に理解すること、さらに、物質をその構成要素であるクラスターの性質から理解する、 一般的方法論を確立することが、私の研究の目的です。
  2. 役に立つ点
    私の研究は、基本的には、物質科学という基礎科学の一分野に属するものです。社会で使用されている工業製品には、すべて「材料」が必要であり、「材料」は、膨大な「物質」の中から、選び出されたものです。「物質」について深く理解することは、「材料」を開発する上で、必要不可欠なことです。もちろん、正20面体クラスター固体のユニークな特徴を生かした「材料」の開発研究も行っています。
  3. テーマに関する情報
    正20面体クラスター固体の研究は、ボロン系に関しては、科学技術庁の無機材質研究所、ドイツのゲルハート・メルカトール大学ドゥイスブルク、アメリカのサンディア国立研究所等で、アルミ系に関しては、東北大学の金属材料研究所、フランスのグルノーブル固体電子物性研究所、アメリカのバージニア大学等で、盛んに研究されています。しかし、両者を統一的に理解しようとする研究は、私のグループでのみ、行っているものです。
    我々の研究成果は、ボロン、ボロン化物および関連物質国際会議と準結晶国際会議(それぞれ3年に一度開催される)、日本物理学会、日本金属学会、アメリカや日本のMaterials Research Society (MRS)で、発表しています。
    この研究に関連のあるキーワードは、正20面体、クラスター、III 族元素、ボロン、半導体、電子不足、三中心結合、アルミニウム、金属、結晶、準結晶、擬ギャップ、電子局在、熱電変換材料、低渦電流材料、広温度範囲温度計材料、等です。


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