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科学者が語る科学の楽しみ

立矢 正典氏

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プロフィール

若者へのメッセージ

科学者を目指す、目指さないに係わらず、論理的に物事を考える習慣を身につけて欲しいと思います。論理的思考能力は、欧米人に比較して日本人が不足している点だと思います。科学者を目指す場合には、論理的思考能力とともに想像力を養って欲しいと思います。科学の研究を行っていくには、俗な言い方をすれば、法律家並の論理的思考能力と芸術家並の想像力が必要だと思います。
現在、世界の一次エネルギー消費速度は80億TOE(石油換算トン)/年です。これに対して化石資源の確認採掘可能埋蔵量は、石油、天然ガス、石炭、オイルサンド、オイルシェールを含めて1.2兆TOEであり、現在の消費速度では158年分しかもちません。現在の消費文明、産業経済活動を続けていけば、早晩、地球は、資源、エネルギー、食糧、水が枯渇し、環境が破壊され、危機的状況に直面することになります。このような問題を解決し、持続可能な発展を実現するためには科学技術の発展が不可欠だと思います。

科学のおもしろさについて

一見非常に複雑に見える現象の中から鍵となる要素を発見し、それを基にして整理することによって、一見非常に複雑に見える現象が実は割合単純な法則によって支配されていることを明らかにしていくのが科学の面白さであり、研究の面白さだと思います。
化学反応の中には、人間にとって有用で速やかに起こって欲しい化学反応と人間にとって有害で起こって欲しくない化学反応があります。化学反応がどのように起こるかを明らかにし、その知見に基づいて化学反応を人間の思うがままに制御することが出来るようにすることです。
自分が開発した理論が沢山の人にいつまでも利用されているのを見るときです。

研究テーマ

     電子移動の速さを決める因子の説明図

  1. 凝縮相におけるいろいろなタイプの反応のダイナミックスについて理論的に研究しています。いろいろなタイプの反応とは、具体的には、拡散律速反応、電子移動反応、ミクロ非均一系における反応等です。その中で現在は特に光誘起電子移動の研究に力を入れています。光誘起電子移動とは光によって一つの分子(ドナー)からもう一つの分子(アクセプター)へ電子が移動する反応です。電子移動の速さは、ドナーとアクセプターの間の距離、反応のエネルギー変化、周囲の溶媒、温度等に依存すると考えられます。電子移動の速さが種々の物理的因子にどのように依存するかを明らかにするとともに、その知見に基づいて電子移動の速さを制御する方法を開発することを試みています。

  2. 光誘起電子移動は光合成の基本をなすものです。近年、エネルギー問題の解決のために、光合成を模倣した人工光合成システムの構築が盛んに試みられています。天然の光合成では、吸収された光のエネルギーによって電荷分離が起こった後、電子は一方向にのみ移動し、吸収された光のエネルギーは効率よく化学エネルギーに変換されます。しかし人工システムでは、電荷分離の後、逆方向の電子移動がすぐに起こってしまい、吸収された光のエネルギーは熱になってしまいます。光誘起電子移動の研究は、天然の光合成の機構の解明につながるとともに、人工光合成システムの開発にも貢献します。
    電子移動の制御は、また、将来の情報技術の開発にとっても重要な研究です。将来の情報技術として分子1個で例えばスイッチングの機能を持つ分子素子の開発に期待が掛かっています。分子素子の動作原理として種々のものが考えられていますが、光誘起電子移動を利用するというアイデアは最も有望なものの1つです。このように光誘起電子移動の研究は分子素子の開発にも貢献すると思われます。
  3. 上で述べた理由で光誘起電子移動の研究は世界中で非常に活発に行われています。世界の一流大学、一流研究機関で光誘起電子移動に関連した研究を一切行っていないところはないといっても過言ではないでしょう。
  4. 現在、通産省の物質工学工業技術研究所基礎部長で筑波大学教授を併任しています。1973年に東京大学大学院工学系研究科博士課程を修了した後、米国のノートルダム大学で2年間博士研究員を勤めました。1977年に化学技術研究所(現在の物質工学工業技術研究所)に入所し、現在に至っています。これまでに、フランスのパリ南大学、ドイツのハーン・マイトナー研究所、オランダのデルフト工科大学の招聘教授あるいは招聘研究員を勤めています。研究におけるモットーは「泥臭いことをエレガントに」です。

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