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科学者が語る科学の楽しみ

山本 尚氏



プロフィール   若者へのメッセージ
科学のおもしろさについて   研究テーマ



プロフィール

山本尚氏の顔写真 山本 尚(ひさし)
日本IBM科学賞 第2回(1988年)化学分野受賞者
筑波大学物理学系 教授

第2回日本IBM科学賞受賞の詳細はこちら

若者へのメッセージ

若さとはまったく保証のない環境におかれても、なお誇り高く頭を上げ、決して卑屈にならずに自分を律して行けることではないだろうか。自分の研究は世界一であると固く信じて進んで行くことが大切である。それと同時に柔軟な心を持ち、他人に対する生き生きした興味と愛情を失わないことが必要である。自分を失わずに他人を受け入れることが、創造的な仕事をする上での最も重要なことであり、基礎になるように思われる。
サッカーではボールを扱う技術とともに、ルックアップといってゲームの局面を見ることの重要性が強調されます。これと同じことが研究者を志す若い人へのアドバイスとしても通用するのではないかと思います。自分の研究テーマについて懸命な努力をするとともに、知的興味を広く持って視野を広げ教養を深めるためのルックアップも忘れないようにしていただきたいと欲張りな注文をしておきます。


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科学のおもしろさについて

世界には自分を表現する手段はいくつでもあるが、科学はそのひとつである。科学を通して自分の個性を表現し、世界中に発信してみよう。きっと限りない満足感が残ると思う。なぜなら、一人一人の科学は各々の個性を色濃く反映し、更には永遠に残るものであるから。私の夢は上で述べたルイス酸の考え方を広げ、高分子合成から、有機合成、医薬品合成等に限りなく自分の化学を広げて行きたいと思っている。


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研究テーマ

生物は温和な条件で欲しいものだけを効率良く作り出している。これをフラスコ内で行おうとしてもなかなか実現するものでない。100%欲しいものだけ作り出す完全反応はまだ多くないからである。わたしは有機合成で最もよく使われているルイス酸触媒に注目し、これをデザインし、酵素に迫る反応性と選択性を獲得することを目指した研究を行ってきた。ルイス酸という有機化学で最も一般的な反応剤に早い時期に興味を持ち、着目できたこと、これを基礎に種々の新しい反応を開発できたことは大変に幸運であった。ふるくから知られている有機反応の非常に多くがルイス酸触媒の恩恵を被っているので、これをデザインして選択的反応に仕上げることの意義は大きい。極端に言えば、有機合成が一変するからである。さらに、ルイス酸触媒の研究を進めて行くことで、不斉合成に研究の範囲を広げることが出来た。医薬や農薬の分野でキラルテクノロジーとか、キラルインダストリーと言われているこの不斉合成は医農薬、材料化学の基礎となるもので今後の大きな発展が約束されている。ルイス酸触媒は有機化合物の特定の官能基と会合し、複合体を作り、そして特定の反応だけを行うように仕立て上げることが出来る。ルイス酸とは電子を受け入れるものである。有機化合物には官能基がある。この官能基は大抵がルイス塩基であり、ルイス酸とお互いに引きつけあう。このようにしてデザインされたルイス酸触媒は有機化合物の官能基とコンプレックスを作って、起こって欲しい反応へとまっすぐに導いて行く。一言で言えば、人工の酵素を作っていると考えてもらっても良い。
具体的な研究はこのルイス酸触媒の設計であり、手元にある分子模型や計算機を用いて自由な発想で設計し、それを実際にフラスコ内で合成し、さらに特定の反応に試して行くことが出来る。建物を設計するように分子を設計できることは人間の持ち得る大きな特権であり、悦びのひとつであろう。建物とは違い、出来あがった物質は構造式さえ正しければ、永遠に存在するもので、その物質の持つ性質は分子設計に由来するからである。最初はアルミニウムに着目して反応剤を設計してきたが、いまはホウ素、チタン、アンチモン、スカンジウム、スズ等周期表を隈なく使っている。


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