日本IBM科学賞第3回(1989年)受賞者
受賞者紹介
榊 裕之(さかき・ひろゆき)
昭和19年10月6日生まれ
東京大学先端科学技術研究センター 教授
東京大学生産技術研究所 教授

昭和 43年
東京大学工学部電気工学科卒業
昭和 45年
東京大学大学院修士課程修了
昭和 48年
東京大学大学院博士課程修了
昭和 48年
東京大学生産技術研究所・助教授
昭和 51年
~52年IBMトマス・ワトソン研究所客員研究員
昭和 62年
東京大学生産技術研究所・教授
昭和 63年
東京大学先端科学技術研センター
教授(併任)昭和 63年
創造科学技術推進事業
「榊量子波プロジェクト」総括責任者専門:
固体電子工学
とくに半導体マイクロ構造の量子効果著書:
『超格子ヘテロ構造デバイス』
(工業調査会/編著)
贈賞の理由
半導体量子構造の研究
半導体の結晶を薄く切った薄膜を別の材料の薄膜と組み合わせ、膜面に垂直に電気を流すと、電子の波動性という量子力学的な現象が現われます。この薄膜での電子の振る舞いを利用しようと1970年に提案されたのが江崎玲於奈博士の超格子です。
超格子などの多層膜では、膜面に垂直に電子を走らせると、電子の波が多層膜で反射され特異な電子状態が生じるという予測がありました。この可能性を実験で証明するため、榊教授は、まず電子を膜面に平行に走らせてその振る舞いを調べ、さらにこれに磁場をかけて電子の方向を変えて膜に垂直に電子を走らせる研究をはじめて行ない、多層膜での反射現象の存在とその制御可能性を証明しました。
このように超格子の薄膜の中を膜と平行に電子を走らせる研究は、その後、電子を高速度で流す手段として利用され、それを第三の電極で制御すればトランジスタになることがわかり、現在の高電子移動度トランジスタ(HEMT)を生み出すきっかけとなりました。
また、薄膜の垂直方向の電気伝導の研究では、極低温で確認されていた、多層膜による反射に伴う特異な負性抵抗特性(電流の異常)が、量子力学の理論通りに室温でも実現できることを見出しました。この成果は、現在、新しい電子デバイスへの応用が検討されています。
さらに榊教授は、高品質の薄膜を作るために、薄膜の成長過程を徹底的に調べて、原子スケールで平らな薄膜を作る方法を考案し、分子線エピタキシーによる高品質薄膜形成の標準的な方法となっています。
こうした超薄膜の研究を行なう一方で、一歩進んで、薄膜を細く切って細線にしたり、細線を細かく切ってサ
イコロ状にしたらそこではどんな現象が起きるかという、量子細線、量子箱に関する物理学を提案し、研究をしてきました。
量子細線や量子箱を組み合わせると、電子の伝導を阻害する散乱現象を抑制することができ、理想的な伝導特性を示すとともに
高性能レーザーの実現にも応用できることなどを理論的に示しています。
※所属名および役職は、受賞時のものです。
