日本IBM科学賞第4回(1990年)受賞者
受賞者紹介
西森 秀稔(にしもり・ひでとし)
昭和29年11月29日生まれ
東京工業大学理学部 助教授

昭和 52年
東京大学理学部物理学科卒業
昭和 56年
カーネギーメロン大学博士研究員
昭和 57年
東京大学大学院博士課程修了
理学博士昭和 57年
ラトガース大学博士研究員
昭和 59年
東京工業大学理学部物理学科・助手
平成 2年
東京工業大学理学部物理学科・助教授
専門:
物性理論
著書:
「スピングラスのゲージ理論」
(『物理学最前線21』、共立出版)
贈賞の理由
ゲージ対称性を用いたスピングラスの理論的研究
ランダムな要素が支配する「不規則系の物理学」は、いまなお多くの謎が残された研究領域ですが、西森助教授は、その1つスピングラスの分野にゲージ理論を世界で初めて導入し、重要な基本関係式を導き出して、研究の発展に大きく貢献しました。
スピングラスは、銅のような非磁性金属の中にマンガンのような磁性金属が数%入った合金で、複雑な性質を示します。たとえば磁化というマクロな性質が、そのサンプルの過去の取り扱いによって違った様相を示すのです。物性物理学者は、この「ミクロな量子力学的スピン」と「マクロな磁気的性質」を橋渡しするため、理論、計算機モデル、実験を通して検討を加えてきました。
一方、まったく別の素粒子論では、自然界の相互作用を統一的に理解するため、ゲージ理論が大きな役割を果たしてきました。ゲージ理論とは、ある種の対称性に注目して組み立てる理論で、電弱理論、量子色力学などの成果が生まれています。
西森助教授は、スピングラスの磁気スピンの並びには、素粒子論で展開されるのとよく似た局所的な対称性が存在することに注目し、ゲージ理論の枠組みを使って理論的検討を加え、ついに、具体的な基本関係式を導き出したのです。
西森理論の最も重要な結論は、スピングラスの内部エネルギーが、格子の形や空間次元とは無関係に厳密に求まることです。しかもこの厳密解は、強磁性、常磁性、スピングラスを示す相図(フェーズ・ダイヤグラム)において、3つの相の境界(三重臨界点)を通過する曲線になるのです。不規則系の世界で、このような厳密解が求まる例は他になく、その重要性から「西森ライン」と呼ばれるようになりました。その後に展開されたさまざまな理論モデルでも、それが正しいかどうかを確かめる“基準”として、この「西森ライン」が使われたのです。
こうしてスピングラスの研究は大きく発展し、最近ではニューラルネットワークなどと関係することもわかってきました。
※所属名および役職は、受賞時のものです。
