日本IBM科学賞第6回(1992年)受賞者
受賞者紹介
川上 則雄(かわかみ・のりお)
昭和33年1月21日生まれ
京都大学基礎物理学研究所 助教授

昭和 55年
大阪大学工学部応用物理学科卒業
昭和 57年
大阪大学大学院工学研究科
応用物理学専攻博士前期課程修了昭和 59年
大阪大学大学院工学研究科
応用物理学専攻博士後期課程退学昭和 59年
大阪大学工学部・助手
昭和 61年
工学博士(大阪大学)
昭和 64年
京都大学基礎物理学研究所・助教授
平成 3年
~4年マックス・プランク固体物理学研究所
客員教授
(山田科学財団海外派遣)専門:
物性理論
梁 成吉(ヤン・ソンキル)
昭和28年11月20日生まれ
(2001年7月27日没)
筑波大学物理学系 助教授

昭和 51年
立教大学理学部物理学科卒業
昭和 56年
立教大学大学院理学研究科
博士課程修了理学博士昭和 59年
二一ルス・ポーア研究所研究員
(仁科記念財団海外派遣研究員)昭和 62年
京都大学基礎物理学研究所・助手
平成 2年
高エネルギー物理学研究所・助教授
平成 4年
筑波大学物理学系・助教授
専門:
素粒子物理学
贈賞の理由
共形場理論に基づく1次元電子系の研究
固体中の電子は、周囲の電子の影響を受けながら運動します。つまり相関関係をもちます。このように相互作用しながら流体のように動く電子を語る理論として、「フェルミ流体論」が固体物理学の伝家の宝刀とされてきました。相互作用の効果を電子の衣として取り込み、その「衣を着た電子」があたかも自由電子のように振る舞うと考える理論です。ところが、この宝刀で切れない物質が注目されています。原子が1次元的に並んだ量子細線や、原子が2次元平面上に配置すると見なせる高温超伝導物質などです。とりわけ1次元物質では量子ゆらぎの効果が大きく響き、もはや「衣を着た電子」として取り扱えません。
川上・梁両助教授は、1次元電子系の臨界現象に着目しました。この系では温度を下げていくと熱ゆらぎが徐々におさまり、絶対零度で量子ゆらぎだけの世界となります。このとき電子が互いに相関をもつ距離は無限大となっています。ちょうど砂漠にいるようなもので、ものさしの長さを変えても系の性質が変わらなくなります。これはスケール不変性と呼ばれます。
一方、素粒子物理学では物理現象の対称性(不変性)に深く根ざした「場の理論」が研究されています。なかでも「共形場の理論」は、“素粒子は弦である”とする超弦理論の数学的支柱として威力を発揮しています。川上・梁両助教授は、この理論の存在基盤である局所的スケール不変牲(共形不変性)がスケール不変性を拡張したものであることに着目し、1次元電子系の臨界現象は「共形場の理論」で記述できると考えました。
1次元電子系ではすでに「朝永・ラッティンジャー・モデル」が提出されていました。しかしこれは弱い相関のモデルであり、強い相関をもつ1
次元電子系の臨界現象における物理量の決定は、困難な問題として残されたままでした。川上・梁両助教授はここに「共形場の理論」
を導入し、「べーテ仮説」という数学的手段を用いて、この物理量を近似なしで計算することに成功しました。1次元電子系の臨界現象を
普遍的に記述する「ラッティンジャー流体論」が確立されたわけです。量子効果を取り入れて普遍概念の基礎を厳密に与えることにより、
低次元電子系の物理を解明するための大きな足がかりを築いたのです。
※所属名および役職は、受賞時のものです。
