日本IBM科学賞第6回(1992年)受賞者
受賞者紹介
舛本 泰章(ますもと・やすあき)
昭和23年12月16日生まれ
筑波大学物理学系 教授

昭和 47年
東京大学理学部物理学科卒業
昭和 52年
東京大学大学院理学系研究科
物理学専攻博士課程修了(理学博士)昭和 52年
東京大学物性研究所・助手
昭和 61年
筑波大学物理学系・助教授
平成 4年
筑波大学物理学系・教授
専門:
物性物理学
著書:
『超格子へテロ構造デバイス』
(共著)
贈賞の理由
超高速レーザー分光法による半導体量子構造の研究
超格子に代表される半導体量子構造は、今後のエレクトロニクス素子や光デバイスの、“基本材料”として大きな期待を集めています。舛本教授は、ピコ(1兆分の1)秒、フェムト(1000兆分の1)秒という非常に短い光パルスを使い、この半導体量子構造の物性を実験的に明らかにしてきました。
AlGaAs‐AlAsの量子井戸には、伝導帯の底と価電子帯の底が同じ層にある「タィプI」と、それらが別の層にある「タイプII」があります。1989年、舛本教授は、タイプII型のAlGaAs‐AlAsの量子井戸で、異なった層間を電子が移動する過程をフェムト秒分光法を使って測定し、これが1ピコ秒で起こっていることを見つけました。この発見は、タイプII型量子井戸による超高速光スイッチの可能性を示したきわめて重要な研究で、実際、その後、高感度・高繰り返し超高速光スイッチ動作を室温で確認しました。
量子井戸は2次元量子構造ですが、次元を下げていくと、1次元の量子線、0次元の量子点(量子箱)になります。1991年、舛本教授は、塩化銅(CuCl)という材料を使い、世界で初めて0次元の量子点でレーザー発振させることに成功しました。
塩化銅のバルク材料は、レーザー光パルスを当てたときに、励起子や励起子分子(励起子が2個結合した状態)がきれいに観測できる材料です。この研究の過程において、食塩(NaCl)の中に数十オングストロームの塩化銅(CuCl)の微結晶を形成すれば量子点ができるので、これを2枚のミラーでできた共振器の中に入れてみようというアイデアがひらめきました。そして実際に材料を作って紫外線で励起してやると、エネルギー準位の高い励起子分子と準位の低い励起子の間に反転分布が起こり、レーザー発振することが実験自的に明らかになったのです。
このレーザー発振は光による注入で、実用化に直接つながる電流注入ではありませんが、半導体量子点がレーザー作用を示す初めての具体例であり
、今後の研究に限りないインパクトを与えるものです。このように、舛本教授は、ピコ秒、フェムト秒という短い光パルスを使って、半導体量子構造
の光物性分野で新しい時代を拓きました。
※所属名および役職は、受賞時のものです。
