日本IBM科学賞第6回(1992年)受賞者
受賞者紹介
中村 栄一(なかむら・えいいち)
昭和26年2月24日生まれ
東京工業大学理学部化学科 助教授

昭和 48年
東京工業大学理学部化学科卒業
昭和 53年
東京工業大学理工学専攻科
化学専攻博士課程修了昭和 53年
米国コロンビア大学化学科博士研究員
昭和 55年
東京工業大学理学部化学科・助手
昭和 59年
東京工業大学理学部化学科・助教授
専門:
有機化学
贈賞の理由
新しい反応活性種の合理的設計と実用的応用
有機化学の世界には、合成しても一瞬で分解したり、極低温でないと不安定な、“幻の化合物”というのがあります。中村助教授は、実験と科学的な基本原理に基づく理論計算を併用することによって、幻の化合物を設計通りに再現性よく合成することに成功しました。実験と理論の組み合わせによる合理的な合成法は、それまでの試行錯誤的なやり方とは異なる新しい考え方です。
実験と理論の併用によって合成に成功した化合物には、金属ホモエノラートや双極性トリメチレンメタンなどがあります。金属ホモエノラートは、幻の化合物だったホモエノラートを安定化することに成功した化合物です。
ホモエノラートは合成すると、すぐに分子内の炭素原子同士が結合して別なものとなってしまう不安定な化合物ですが、亜鉛やチタンなどの金属イオンを使って安定化しました。中村助教授は分子内の電子状態を計算しながら実験を進めることによって、合成に成功したのです。こうして作った金属ホモエノラートは、今では有機化学反応の重要な反応活性種となっています。例えば、金属ホモエノラートを使うと、副腎皮質ホルモンの化学合成にかかる反応段階はそれまでの約半分ですみます。
最近の成果である双極性トリメチレンメタンは、非常に変わった構造をしています。この化合物は、中心の炭素原子が他の3つの炭素原子と結合していますが、この3つの炭素原子との結合は、二重結合と単結合の間の性質をしています。このような結合の仕方を持つ化合物は、不安定だと思われてきましたが、酸素原子をうまく配置して安定化することに成功しました。
双極性トリメチレンメタンは、実用面でも期待されています。この化合物を使うと、5つの炭素原子が分子内で輪を作る五員環を持つ化合物を簡単に作ることができます。五員環はアルカロイドなどの生理活性物質の基本骨格になっています。
このように、中村助教授は実験と理論を組み合わせれば、合理的に反応活性種を設計して、実用までもっていくことができることを次
々と実証しています。この新しい考え方は、有機化学界の新しい流れとなっています。
※所属名および役職は、受賞時のものです。
