日本IBM科学賞第8回(1994年)受賞者
受賞者紹介
菊池 和朗(きくち・かずろう)
昭和27年3月6日生まれ
東京大学工学部電子工学科 教授

昭和 49年
東京大学工学部電気工学科卒業
昭和 54年
東京大学大学院工学系研究科
電子工学専攻博士課程修了(工学博士)昭和 54年
東京大学工学部電子工学科・専任講師
昭和 59年
東京大学工学部電子工学科・助教授
昭和 61年
Bell Communications Research
コンサルタント平成 6年
東京大学工学部電子工学科・教授
専門:
光エレクトロニクス
著書:
『コヒーレント光通信工学』
(共著:オーム社)
『Coherent Optical Fiber Communications』
(共著:KTK Scientific/Kluwer Academic)
贈賞の理由
量子光通信システムの基礎的研究
光通信は社会に不可欠の技術として広く利用されています。現在の光通信システムでは、半導体レーザから出る光の強度を変調させて信号を作り、これを光ファイバを通じて伝送させる方式が使われています。この方式は光の位相を利用しておらず、簡便である半面、単位時間に送り得る情報量(伝送容量)は光の本来持っている量子雑音限界にほど遠い段階に留まっています。
光の位相にも情報をのせることができれば、より高い受信感度の得られることが期待されます。実際、良質な波の得られる電波通信の分野ではヘテロダインやホモダインと呼ぶ波の位相を用いたコヒーレントな通信方式が確立しています。しかし、光通信の波源である半導体レーザの光には周波数や位相の大きな揺らぎ(雑音)が含まれるため、コヒーレントな光通信の適不適は明らかではなかったのです。
菊池教授は、レーザの位相雑音がコヒーレント通信方式の誤り率に及ぼす効果を理論実験の両面から明らかにするとともに、半導体レーザの周波数を安定化させる研究を進めました。この先駆的研究により、コヒーレント光通信の実現可能牲が示されたほか、伝送容量を量子的限界に近づけるためには半導体レーザや検出器がどのような条件を満たすべきかが明らかになりました。これらの研究は、共同研究者の大越教授の仕事と並んで、この分野の研究を先導するものとして高く評価されています。
先端的な光通信システムでは、レーザなど光素子の内部の量子的揺らぎ(雑音)を極限まで抑えることが必要です。菊池教授はへテロダイン検出を利用したレーザの線幅やFM雑音を精密計測する新手法を開発し、レーザの強度雑音と位相雑音の機構解明と低減化に成功するとともに、発振線の狭帯域化や波長変調でも注目すべき成果を達成しています。
また超高速光通信の手段として、半導体光増幅器を用いた方式の研究を行い、テラヘルツ領域の高速応答の得られることやスペクトル反転で多化波形の復原ができることなど典味深い成果を示してきています。
このように菊池教授は、半導体レーザなど光デバイスにおける量子揺らぎとその先端的光通信方式に及ぼす効果を解明し制御するための研究で顕著な業績を達成するとともに、次世代の光通信方式の開発で指導的役割を果たしつつあります。
※所属名および役職は、受賞時のものです。
