日本IBM科学賞第8回(1994年)受賞者
受賞者紹介
北島 信正(きたじま・のぶまさ)
昭和29年9月7日生まれ
(1995年没)
東京工業大学資源化学研究所 助教授
昭和 52年
東京工業大学工学部化学工学科卒業
昭和 57年
東京工業大学理工学研究科
化学工学専攻博士課程修了(工学博士)昭和 57年
プリンストン大学化学科・博士研究員
昭和 59年
ハーバード大学化学科・博士研究員
昭和 60年
東京工業大学資源化学研究所・助手
平成 3年
東京工業大学資源化学研究所・助教授
専門:
生物無機化学、配位化学
著書:
『化学者のための数学』
(共著:東京化学同人)
『Bioinorganic Chemistry of Copper』
(共著:Chapman & Hall)
『Organic Peroxides』
(共著:Wiley)
贈賞の理由
精密合成錯体をプローブとする金属タンパク質の構造の解明
これまでに遷移金属イオンを活性点に持つ種々のタンパク質が知られ、その生理学的重要性は近年ますます注目を集めています。これら金属タンパク質の示す著しい反応性の鍵は、金属サイトの特異な配位構造にあります。金属サィトの配位構造を原子レベルで決定するには構造既知の低分子量モデルとの詳細な分光学的比較が必要不可欠でありますが、北島助教授は、タンパク質中の金属サイトの配位環境を再現できる新規配位子を巧みにデザインし、これを用いて種々の金属タンパク質の活性部位の精巧なモデル錯体の合成に成功し、その分光学的性質及び反応性の詳細な検討から、これまで未知であった金属タンパク質の構造・機能を明らかにしました。
非ヘム系タンパク質の金属サイトにおいて最も普遍的に見い出される配位子は、ヒスチジンのイミダゾール基でありますが、北島助教授はこの事実に注目し、イミダゾールに近い骨格構造を持つピラゾールを用いて三脚型でかさ高い配位子を開発しました。これらの配位子は、金属タンパク質の活性部位における多座イミダゾール配位に類似した配位環境を与え、従来堅固なタンパク鎖によってのみ安定化され、低分子量錯体としては合成が極めて困難とされてきた銅、非ヘム鉄、マンガン、亜鉛タンパク質の活性部位モデル錯体の初めての合成に数多く成功しました。
たとえば、プルー銅タンパク質は、種々の酵素反応に関与する重要な電子伝達体でありますが、北島助教授は、電子スペクトル、ESR、共鳴ラマンスペクトル、X線吸収スペクトルなどが天然のものに完全に一致する錯体の合成に初めて成功するとともに、無脊椎動物の酸素運搬体へモシアニンのモデルとして2核銅酸素錯体を合成・単離し、その分子構造を決定しました。
特に後者では、酸素が特異な配位モードで2つの銅の間に架橋している構造を見いだし、この酸素錯体がそれまで知られていたヘ
モシアニンの構造的特徴をすべて満たすのみならず、電子スペクトル、ラマンスペクトル、磁性等、いずれの性質もへモシアニンの酸
素付加体の特徴をすべて完全に再現することを示しました。その構造の存在は、昨年になり、カブトガニのへモシアニンの酸素付加体の
単結晶X線解析により証明され、現在北島構造として世界的に広く知られています。
※所属名および役職は、受賞時のものです。
