日本IBM科学賞第9回(1995年)受賞者
受賞者紹介
金子 邦彦(かねこ・くにひこ)
昭和31年7月6日生まれ
東京大学教養学部基礎科学第1 教授
昭和 54年
東京大学理学部物理学科卒業
昭和 56年
東京大学大学院理学系研究科
物理学専攻修士課程修了昭和 59年
東京大学大学院理学系研究科
物理学専攻博士課程修了昭和 59年
日本学術振興会・研究員
昭和 59年
Los Alamos National Laboratory,
postdoctoral fellow昭和 60年
東京大学教養学部物理教室・助手
昭和 62年
~63年University of Illinois at Urbana-Champaign 文部省在外研究員
昭和 63年
~平成 元年Los Alamos National Laboratory,Stanislaw Ulam Visiting Fellow
平成 2年
東京大学教養学部基礎科学科第1
助教授平成 6年
東京大学教養学部基礎科学科第1
教授専門:
複雑系の物理学
著書:
『Collapse of Tori and Genesis of Chaos in Dissipative Systems』
(World Scientific,1986)
『複雑系のカオス的シナリオ』
(津田一郎氏と共著:朝倉書店)
『Theory and Applications of Coupled Map Lattices』
(編著,Wiley,1993)
贈賞の理由
結合マップ系の導入による時空カオス、大自由度カオスの理論的研究
低自由度カオス系の研究は大きく進歩したが、自然界には自由度が大きいカオスが広く存在する。例えぱ空間的に広がった系の時空カオスは乱流現象一般、光学系、固体物理、プラズマ、化学反応系、心臓の集団リズム、神経の集団活動等で見られる。金子教授は時空カオスの研究のために結合マップ格子(CML)を1983年に導入した。その後の研究により、CMLは時空カオスの標準模型として認識される一方、構成的モデル化としての最近の複雑系研究の先駆となった。
特に空間分岐、凍結カオス、時空間欠性による転移、準定常的な超過度時空カオスなどの新現象を発見、それらは液晶の電気対流、熱対流、粘性流体など多くの時空カオスの実験で確認されている。また、時空カオスのリヤプノフ解析や統計力学理論を導入、これらは現在数理物理学の1分野となっている。CMLは、パタン動力学を扱う有効な計算機シミュレーション手法として、気象から生態系まで広い範囲で応用されている。
一方、ネットワーク系のダイナミクスとして大域的な結合をもつカオス系のミニマルモデルとして、大域結合マップを導入した。特に要素がいくつかの同期して振動する集団(引き込みクラスター)に分かれることを発見、さらにカオスと相互作用の強さによって(1)完全同期相、(2)数個の引き込みクラスターに落ちる秩序相、(3)部分引き込み相、(4)非同期相への転移が起こることを見出した。
部分引き込み相では要素間の関係が変化していくカオス的遍歴を見出し、その機構を明らかにした。さらに非同期相では各要素がぱらばらに振動しているにもかかわらずその平均場は大数の法則が破っていることを発見、カオス結合系では隠れた相関が普遍的に残ることを示した。これらはその後、ジョセフソン結合系、レーザー系等の数値計算や実験で確認され、大域的なカオス結合系の基本的概念となっている。現在、この考えをもとに脳情報処理、糸細胞集団の分化、生態系の動力学を議論することが理論的、実験的に進められている。
以上のように、金子教授の結合マップの研究は、乱流現象、パターン動力学から生物系、情報科学に至る複雑系研究の1規範としてこの分野をリードしてきた。
※所属名および役職は、受賞時のものです。
