日本IBM科学賞第10回(1996年)受賞者
受賞者紹介
今田 正俊(いまだ・まさとし)
昭和28年8月23日生まれ
東京大学物性研究所 助教授

昭和 51年
東京大学理学部物理学科卒業
昭和 56年
東京大学大学院理学系研究科
物理学専攻博士課程修了(理学博士)昭和 56年
東京大学物性研究所・助手
昭和 61年
埼玉大学教養部・講師
昭和 62年
埼玉大学教養部・助教授
平成 2年
東京大学物性研究所・助教授
専門:
物性物理学理論、
統計物理学、計算物理学著書:
『理工系のための物理理学の基礎』
(共著、日新出版、1990年)
『計算物理学』
(共著、日本物理学会編
培風館、1991年)
贈賞の理由
金属絶縁体転移の理論
金属と絶縁体との間の相転移の研究は、長い歴史を持ちながら現在もなお、問題の奥深さと多様性のゆえに、物性物理学の中心的でかつ困難な課題の一つとして広く認識されている。これは現実の物質では、電子間相互作用(電子相関)や電子格子相互作用、さらには系の乱れの影響が複雑に絡まり合うためでもあるが、より基本的な困難は、強い電子相関効果を正しく記述する理論が未だに確立されていない点にある。
今田正俊助教授は、電子相関を主因とする金属絶縁体転移(モット転移とよばれる)について数値計算とスケーリング理論を組み合わせながら研究を進めた。現在、理論模型に内在する現象を何の近似なしに解析できる数値計算は多体問題研究の有力な手段になっている。同助教授は、ハバード模型を中心に2次元強相関電子系に関する大規模な量子モンテカルロ計算を行ない、スピン相関、電荷相関、超伝導相関などの基本的な様相を明らかにするとともに、従来のバンド理論(平均場近似)から導かれるキャリア濃度消滅型の転移描像に反して、金属相の電荷圧縮率がモット転移点に向けて臨界的な発散をすることを見出した。
それらの結果を踏まえて、モット転移を量子相転移現象の一つと捉え、その臨界特性に対するスケーリング理論を提案した。バンド描像の転移や重い電子系における転移も包含する理論であり、これから、金属相と絶縁体相における諸物理量が従うべきスケーリング則が導かれる。この理論を検証するため、独自に開発した計算手法を用いて、2次元ハバード模型の絶縁体相の特性を解析した。得られた局在長の臨界的振舞いは、金属相での電荷圧縮率のそれと合わせて、予言されたスケーリング則を満たしていること、さらに、その臨界指数の値から、この系のモット転移は、従来のバンド描像のものとは異なる、新しいユニバーサリティクラスに属していることを検証した。
以上の、主に低次元ハバード模型に基づいた今田助教授の研究成果は、これまで長く難問題とされてきた金属絶縁体転移の研究に新たな一歩を画するものであり、
モット転移近傍の金属の異常さや超伝導に関して新たな視点と理解を可能にしたと言える。また、独自に開発したアルゴリズムや計算手法による研究成果として、
物性研究における計算物理学の見地からも高く評価される。
※所属名および役職は、受賞時のものです。
