日本IBM科学賞第13回(1999年)受賞者
受賞者紹介
齋藤 理一郎(さいとう・りいちろう)
昭和33年3月13日生まれ
電気通信大学電気通信学部電子工学科 助教授

昭和 55年
東京大学理学部卒業
昭和 60年
東京大学大学院理学系研究科
物理学専攻修了、理学博士昭和 60年
東京大学理学部・助手(物理学教室)
平成 2年
電気通信大学電気通信学部電子工学科
助教授平成 2年
東京大学理学部・客員助教授
(併任、中間子科学研究センター)平成 3年
マサチューセッツ工科大学・客員研究員
(併任)平成 5年
東京大学大学院理学系研究科
客員助教授(併任、流動講座)平成 9年
東京大学物性研究所・客員助教授
(併任)専門:
固体物理学
贈賞の理由
カーボンナノチューブの理論的研究
鉛筆やシャープペンシルの芯は、グラファイトからできている。紙に書くときに、グラファイトの炭素層が一枚ずつ剥がれて字になることから、われわれは、毎日2次元グラファイトの黒鉛シートを紙上に生産していることになる。この黒鉛シートを丸めて作った円筒形の物質が、カーボンナノチューブである。ナノチューブの名前は、円筒の断面
の直径が0.5から10ナノメートル程度の極微サイズに由来するが、21世紀の主流となるナノスケール・デバイスに適した物質ということから、いまや物理、化学、物質科学、工学を横断した広範な領域で多大の関心を集め、非常に多くの研究者が爆発的に研究を進めている。
1990年にフラーレンが大量に合成された翌年に、カーボンナノチューブは、フラーレン系物質合成の副産物として、NEC基礎研究所・飯島澄男博士によって“セレンディピティ”的に発見された。この新物質が発見されるや否や、その電子構造の研究を積極的に進め、チューブの半径や螺旋度に依存して金属・半導体両方の状態が現れることを指摘したのが齋藤理一郎助教授である。齋藤助教授は、ナノチューブにはさまざまな螺旋構造が可能であり、その構造は2次元グラファイトを構成する六方格子の格子点を結ぶ一つのベクトル(カイラルベクトルと呼ぶ)で記述できることを示した。これは、同じ炭素原子からできた無数のチューブの電子状態と物性を、一つのカイラルベクトルで特徴づけられることを示したもので、非常に優れたアイディアとして評価され、その後の電子状態に関する研究の指針となった。このように、齋藤助教授は、カーボンナノチューブの理論的研究のパイオニアとして世界的に高く評価され、マサチューセッツ工科大学のDresselhaus教授夫妻とともに、昨年カーボンナノチューブの物性物理学に関する本を出版した。
炭素だけからなる1次元物質から、金属と半導体が得られ、それを組み合わせることによって、新しいタイプの超格子や接合を作って、新しい量
子現象を見いだすことも可能となり、それを利用した新しいデバイスも作られつつある。こうしてカーボンナノチューブの登場は、従来半導体・超伝導物質で独占されてきた物質科学の世界を変えようとしつつあり、齋藤助教授の研究成果
は、このような物質科学の発展に大きく寄与するもので、本賞を贈るのに誠にふさわしいものである。
※所属名および役職は、受賞時のものです。
