本文へジャンプ

日本IBM科学賞第13回(1999年)受賞者

受賞者紹介


杉山  弘(すぎやま・ひろし)
昭和31年7月19日生まれ
東京医科歯科大学生体材料工学研究所  教授


齋藤理一郎氏の顔写真

  1. 昭和 54年

    京都大学工学部合成化学科卒業

  2. 昭和 59年

    京都大学大学院工学研究科
    合成化学専攻博士課程修了

  3. 昭和 59年

    米国ヴァージニア大博士研究員

  4. 昭和 61年

    日本学術振興会特別研究員

  5. 昭和 62年

    京都大学工学部合成化学科・助手

  6. 平成 5年

    京都大学工学部合成化学科・助教授

  7. 平成 5年

    京都大学工学部合成化学科・助教授

  8. 平成 8年

    東京医科歯科大学医用器材研究所
    教授

  9. 平成 11年

    東京医科歯科大学生体材料工学研究所
    教授

  10. 専門:

    生物有機化学、遺伝子有機化学

贈賞の理由


DNAの原子特異的反応に関する研究

近年の分子生物学の急速な進歩によって、ガンや遺伝病を含む多くの疾病がDNA(デオキシリボ核酸)のレベルで理解されるようになり、遺伝子治療という言葉も頻繁に聞かれるようになった。しかし、現行の遺伝子治療を実際の治療に役立つ真に有効なものとするには、細胞内でのDNAの構造解析や、細胞の外からDNAの働きを制御する化学的原理と方法論の開発が必須である。杉山教授の研究は、DNAから遺伝情報が引き出される時の構造変化や、細胞外から加えられた薬物がどのようにDNAに作用するかなど、DNAの挙動に関する未解明の問題を解きあかす鍵を提供した。

二重らせん構造をとるDNAは、遺伝情報を書き込んだ書物である。DNAからの遺伝情報読み出しに際し、二重らせんの構造に変化が起きることが知られてきた。杉山教授は、遺伝情報の読み出しの際のDNAの局所構造変化を解析する新しい方法を提案した。即ち、DNAに5–ハロウラシルという核酸塩基を組み込み、光照射して生成するウラシルラジカルを巧みに利用して、DNAの三次構造を解析する方法である。さらに杉山教授は、DNAを標的部位として作用する抗ガン性抗生物質に対し核酸塩基選択性を賦与するための基本原理を見いだし、その知見に基づいて、特定の塩基配列に対して特異的に化学反応する分子の合成に成功した。こうして設計した分子は特定遺伝子の発現を抑える薬剤として、新しい抗ガン剤や遺伝子治療薬開発への道を拓くものである。

さらに、杉山教授の研究テーマは、核酸の反応性の理論解析にも及んでいる。DNAのグアニン・グアニン(GG)配列において酸化的損傷が高頻度で起きやすく、突然変異が起きやすい。杉山教授は、この配列における化学変化の本質を明らかにし、GG配列において特異的に酸化反応が起こる理由について理論的に解明した。

このように杉山教授の研究は、DNA上のミクロの化学反応からマクロの構造変化に至る総合的なテーマ設定のもとに行われている。ヒューマンゲノムプロジェクト完了後のポストゲノム時代、即ち、化学と生物の融合の時代に先駆けた独創的研究である。その研究成果は、有機化学の分野にとどまらず、分子生物学から医学にまでおよぶ広い分野に大きなインパクトを与えており、本賞を贈るにふさわしい研究である。

※所属名および役職は、受賞時のものです。