日本IBM科学賞第14回(2000年)受賞者
受賞者紹介
樺島 祥介(かばしま・よしゆき)
昭和42年2月20日生まれ
東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻 助教授

平成 元年
京都大学理学部卒業
平成 3年
京都大学大学院理学研究科
修士課程修了平成 5年
同博士課程中退、
奈良女子大学理学部・助手平成 8年
東京工業大学大学院総合理工学研究科
講師平成 12年
東京工業大学大学院総合理工学研究科
助教授専門:
統計力学、情報理論
贈賞の理由
スピングラス理論に基づく新しい符号・暗号理論の構築
誤り訂正符号および暗号の技術は、情報通信分野における基盤技術の一つであり、その基礎となる符号理論の動向が、情報通信技術に与える影
響は大きい。これらの理論分野では従来、整数論や代数などの数学的手法を基礎としていたが、樺島助教授は、従来の枠組みとはまったく異なる観点から理論体系を構築した。
スピングラス理論とは、強磁性、非強磁性という二つの異なる磁性を示す金属を急冷した合金の物性を調べる理論物理学の研究分野である。
物理学の中でも比較的新しい分野であり、現在でも活発な議論が行われている。樺島助教授は、これらの議論の本質が合金の物性という物質科学上の問題にとどまらず。コンピュータサイエンスの問題にも広く威力を発揮することを洞察し、スピングラス理論を基盤に符号・暗号研究における最先端の研究領域を切り開く新しい理論的枠組みを構築した。
符号理論で最近注目されている研究課題に、低密度パリティ検査符号とよばれる符号族の解析がある。この符号族は約40年前に提案されながら、最近になってようやく誤り訂正能力が実験的に示された。樺島助教授は、この符号に関する厳密な解析に成功した。これは,長く未解決の問題であった最良符号の構成的設計可能性問題を肯定的に解決したものである。さらに樺島助教授は、現在事実上の標準方式とされているRSA暗号とは原理的に異なる公開鍵暗号方式を開発した。この方式は低密度パリティ検査符号に基づいたものである。理論面では、この暗号に関する安全性評価のために、理論物理学における理論を採り入れた新しい安全評価手法を提案した。これらの手法は、未だ謎の多い有限結合系のモデルに対し、解析手法を大きく前進させたものである。
理論物理学の成果を符号・暗号理論に応用する試みは以前から行なわれていたが、樺島助教授はこれを積極的に推進し、理論面
・実際面で少なからぬ貢献をした。理論物理学の成果を符号・暗号理論に持ち込むことの是非については、学会でもまだ明確な結論は出ていないものの、樺島助教授の斬新な解析手法は符号理論分野に多大の影響を与えるものであり、本賞を贈るにふさわしいものである。
※所属名および役職は、受賞時のものです。
