日本IBM科学賞第14回(2000年)受賞者
受賞者紹介
山内 薫(やまのうち・かおる)
昭和32年4月27日生まれ
東京大学大学院理学系研究科化学専攻 教授

昭和 56年
東京大学理学部化学科卒業
昭和 58年
東京大学大学院理学系研究科
化学専門課程修士課程修了昭和 60年
東京大学大学院理学系研究科
化学専門課程博士課程中退昭和 60年
東京大学教養学部基礎科学科第一・助手
昭和 61年
理学博士(東京大学)
平成 2年
東京大学教養学部基礎科学科第一
助教授平成 4年
京都大学工学部電気工学科・助教授
平成 9年
東京大学大学院理学系研究科化学専攻
教授専門:
物理化学・強光子場科学
贈賞の理由
光子場における超高速分子ダイナミクスの研究
光と分子系との相互作用を基礎にして、分子内エネルギー移動と化学結合の解離ダイナミクスを明らかにして、さらには分子構造制御を達成することは化学反応論の中心的研究課題である。山内教授は、この種の独創的研究を展開し、分子内超高速振動エネルギー移動機構、光解離反応の遷移状態ダイナミクス、および強光子場中における分子解離ダイナミクスと分子構造制御に関する研究において傑出した業績をあげた。
山内教授は、分子の光吸収によって付与されたエネルギーが分子内自由度にどのように分配されて化学結合の切断に至るかの基本的反応論の命題を明らかにした。すなわち、振動エネルギーが分子内に分配されるピコ・フェムト秒領域の過程が特定の振動モードの励起を通して段階的に分子内に伝播し、最終的に分子内振動モード全体の励起に至ることを、周波数領域の分光実験から明らかにした。そして、時間依存描像に基づく振動モードの帰属、という新しい考え方を導入し、その複雑な分子内振動エネルギー再分配機構を明確に説明することに成功した。
また、光解離フラグメント励起分光法を真空紫外領域に初めて応用し、分子振動の一周期程度しか寿命を持たない直接型解離反応のダイナミクスの特徴を硫化カルボニル分子について示した。すなわち、光励起後の100フェムト秒程度の寿命を持つ遷移状態近傍において、解離反応座標と垂直な方向に分子が振動しながら解離していく様がスペクトルパターンに直接反映されることを示した。光解離反応の遷移状態を直接観測した典型例として注目されている。さらに、光と分子の相互作用が大きくなると分子はどのように振る舞うのか、という本質的な問いに答えるため、強い光子場の中におけるNO2、CO2などの分子の振るまいを、質量選別運動量画像法という新しい手法を導入することによって詳細に検討した。そして、強光子場中で分子内ポテンシャルが光と強く結合し、ドレスト状態を形成した結果、10-100フェムト秒という極めて短い時間において分子構造が大きく変化することを初めて明らかにした。
以上のように、山内教授の研究業績は分子科学における新しい研究領域を積極的に切り開いた独創的なものであり、本賞を贈るにふさわしいものである。
※所属名および役職は、受賞時のものです。
